山桜SS
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雨とろ組
六年ろ組はオリエンテーリングの事前準備の帰りだった。
その帰り道の事、落ち合った街道の途中でにわか雨に降られてしまった。
「うわああ、降ってきた~…!」
「ち、運が無いな」
「…あ! あそこに辻堂……!」
「こっちだ、遥…」
怪士丸に手を引かれて、蓬川遥は転がるように辻堂に逃げ込む。
「ほら、つめてよ」
「わっ」
がばっと背後から押された遥は、勢い余って怪士丸の胸に飛び込む形になってしまった。
「ご、ごめん怪士丸!」
「いいよ、だいじょう、ぶっ!?」
どさあっ、と遥に加えて更に重みがかかる。
遥の背後にはムギュッと抱きついる孫次郎、その孫次郎に寄りかかるように、もうひとつ影が増す。伏木蔵だ。
さすがに踏ん張りが利かず、怪士丸は二三歩後ずさる。
背後でゴン、と音がした。
「孫次郎っ!お前な!――って怪士丸、大丈夫?」
「だ、大丈夫…」
「あ~…、間一髪だったね~…」
背後からいまだに孫次郎はむぎゅうっと抱きついている。
「離れなさいっ!」
「仕方ないじゃないか~…、お堂狭いんだから」
「キンキン騒いでないで、もっとそっち、寄ってくれよ。ここ雨が降り込むんだから」
伏木蔵の声に、怪士丸は背後にいたはずの平太を振り返り――。
「平、太…?」
「わあっ、平太、大丈夫!?」
「大変だ、平太がお堂の壁に顔からぶつかって泣いてる~…」
「…い、いたあ……」
一番に駆け込んだ平太は、怪士丸と壁に挟まれて頭をさすっている。
「さ、さっきのゴンって怪士丸じゃなくて平太だったんだ、大丈夫か?」
遥が覗き込むと、平太はふるふると首を振る。
「…うう、コブできたかも……」
「どれどれ」
額に手を当てると、確かにコブになっている。平太が保健委員会である伏木蔵を見ると、彼はにっこりと暗く笑った。
「大丈夫、それくらい舐めておけば治るよ」
「保健委員とは思えぬお言葉…」
「…な、舐めておけばって、おでこだよ……」
舐められるわけないだろう、と、額をさする平太に、
「遥」
伏木蔵が遥の肩を抱く。
「ここは学級委員長としてひとつ」
「え、舐めろと?」
「…え、ええ……!?」
「遥、ぼくもコブができたかも~…! 脳味噌に!」
「孫次郎よ、それは腫瘍だ…」
怪士丸のツッコミはますます強くなってくる夕立の音にかき消された。
「すごいな、雨脚」
田畑は白くけぶる。
この時期のにわか雨だ。しばらくは狭いお堂で通り過ぎるのを待つしかない。
「雨宿りって何か楽しいね~…」
「…あ、うん。おれわかる気がする……」
「私も雨の日は好きだ。読書がはかどる…」
「私は野分が好きだな。下級生が比較的大人しくしてるから、けが人が出ないし」
「私、昔は雨って好きじゃなかったな」
「遥は日向先生派か」
「そうかも~…、ぼくらの中で一番明るいかも」
「いや、私は普通だから…。…でも今は私も雨が好きだよ」
「なぜ?」
そう、短く伏木蔵が問う。
意外だ、と思う。
遥のことだから、湿気が増えるとか洗濯物が乾かないとか布団も干せないとか、言いだすのかと思っていたのだ。
平太も怪士丸も雨を見ていた。孫次郎はじーっと遥を見上げている。
「雨宿りも、たまには良いよね」
最近、食事を共にする時間が減った。
昔のように、いつまでも皆一緒というわけにもいかない。
実習も入るし委員会だって忙しい。
成長するということは、そういうものなのだろうが、やはり少し、寂しい。
そんなふうに遥は思っているし、クラスの全員がそれを知っている。
「あ~…、あんまりこうやってくっついてる事、なくなったもんね。ぼくらみんな、委員会が忙しいから…」
図書、保健、生物、用具。
常時から仕事のある委員会に所属しているものばかりだったから、ろ組は全員がそろっているということが、あまりない。
「ほんとは固まってるのは良くないがな……、敵に見つかったら一網打尽……」
「それはそう」
「…つ、次の休み、みんなでどこか行こうか……?」
「釣り、とか…」
「お弁当持って野点も良いな。ついでに薬草摘み手伝ってくれたら嬉しい」
「も~…、伏木蔵は人使い荒いんだから~…。薬草摘みはいいけど、でも、お天気はどうかな」
まだまだ雨はやみそうにない。
雨の日は好きだ。しかし。
「晴れたらいいね!」
しかし、次の休みは晴れたらいい。
その遥の言葉にそれぞれに頷いた六年ろ組だった。
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