降魔の太刀
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「懐かしいな」
「懐かしいですね」
「………」
皆本金吾は箸を置いた。
なんだ、このいたたまれない疎外感は。
「一応、告白のつもりでしたのに、戸部先生はまったく気づかれませんでしたね」
「…ふむ、初耳だ」
「やはり気付かれなかったのですか。もしや誤魔化されたのかと思っていたのですが」
「すまん」
「………」
ずずーっと茶をすする金吾を余所に、敬愛する師範と遥はニコニコと笑って昔話をしている。…昔話だろうな本当に、と金吾はこめかみはひくりと動かした。
「女子は父親に似ている男を選ぶと言うが、お前が金吾を選んだあたり、信憑性のある説だな」
ぶっ
「金吾、お茶はきちんと飲まぬか」
「す、すみませ…」
新左ヱ門の唐突な言葉に、金吾はお茶を飲み下せずに吹きだし、遥はかあっと頬を染めた。
「やめてください、戸部先生!」
「そ、そう勢いこんで否定せんでもよかろうに…」
ぶんぶん手を振っている遥の剣幕に気おされて、戸部新左ヱ門は一歩下がる。金吾はひとつため息をついた。
「なれば、戸部先生、教えていただけますか、遥のお父上の事を」
「え、そんなの別に…、今じゃなくても…」
「いいじゃないか、少しくらい」
「ふむ、遥のお父上は――そうだな、真っ直ぐな方だったな。戦においては厳しい方だったが、普段はどちらかと言えばぼーっとしていたかもしれん。酷く不器用者で、剣以外は鞋も編めない…本当に疎い方であった…」
「そ、その方に私は似ておりますか…」
「似ておる」
「そんなことありません!父は強く勇敢だったと聞いております!」
金吾のような軟弱者ではありません、と首を振った遥に、金吾は眉を吊り上げ非難し、師範は苦笑した。
遥の父親と新左ヱ門は友人であった。実際、遥の父は明るく子供が好きで、まだ若武者だった新左ヱ門を弟のように扱ってくれた。行き倒れていたところを拾ってくれたのも彼だった。
しかしいざ戦さとなれば先陣を切って刀をふるう、気丈な男でもあった。
金吾とはよく気性が似ていると思う。懐かしい、と新左ヱ門は笑った。
「そういえば、言うのが遅くなってしまったが――…」
「はい?」
「このたびのこと、私は本当に嬉しく思う。奇しくも仲人役になってしまったが、二人ともこれからも互いを慈しみ、励みなさい」
そう言って新左ヱ門が頷くと、背を正して「はい」と二人はそう頷いた。
「遥、今日の飯も旨かった」
「はい、ありがとうございます」
はにかんで頷いた遥の横顔は、両親の面影を良く残している。
乱世の世にあって非業の運命を遂げた者など、珍しくも無い。
しかし、目の前の娘のことは面倒を見ようと思っていた。自分の力の及ぶ限りは。
つまらない事で言い合いしている金吾と遥を眺め、新左ヱ門は眉を下げた。
「しかしまだまだ肩の荷は下りんか」
「は?」
「いや。さて、食事はすんだし、金吾、稽古をつけてやろう」
「はい」
「遥、木刀をこれへ」
「承知しました」
遥に稽古をつける事は少なくなり、金吾への叱咤は増えた。
それを寂しく思っているのかそれとも頼もしく思っているのか、遥の相貌からはうかがえなかった。
どちらにせよ。
そう、戸部新左ヱ門は穏やかに微笑む。
幼い遥の言葉と、目の前の弟子のいつまでも真っ直ぐな眼差しのおかげだ。
こうして、戸部新左ヱ門は鬼神の如き強さを秘めながらも、いまだヒトの道を踏み外していないのである。
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