降魔の太刀
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「やっぱり戸部先生は天下無双であらせられる…」
ほうっと息を吐いた遥に、金吾の眉尻がひくりと動く。新左ヱ門がゆらり、と刀をおさめると、挑戦者は慌ただしく一礼し、その場を逃げ去っていった。
「最近になって、刀の技もますます冴えておられる…。なあ、金吾!」
「そ、そうだな…」
まだまだ自分が師に勝てるなどとは思わないが、こうして遥の口から師範とはいえ他の男の賛辞が出ると、なんだかやるせない。
そう金吾が師の姿を眺めていると、ゆらり、とその背中が傾ぐ。
「あ」
そのまま、師はゆらーりと地面に突っ伏してしまった。
「戸部先生!」
「おお、すまんな、遥」
「大丈夫ですか、お昼前でしたのに、お見事でございました」
「…ふむ、この癖は治さねばならんなあ…」
「戸部先生らしくてよろしいかと」
というか、この弱点はおそらく生涯直らない。そう思った遥は、苦笑して師に寄り添う。
「我が家まで、もう少しです、わたくしにつかまってくださ――」
「戸部先生は私がお連れする。遥は、先に帰って食事の準備をしておけ」
そう新左ヱ門の肩を支え、遥を引き離すと、遥は一瞬目をしばたいて、それから眉を上げた。
「分かった」
無愛想にそう言って走っていく遥を見送ってから、金吾はこっそりとため息をつく。
昔から師範を巡って争うことは多々あった。こんなやり取りも日常的だ。今のこと、気づかれてはいないはず。
――こんなふうに妬くなんて、どうかしてる。
師を支えつつ、金吾は土手を歩き出す。
なんだか、苦々しい。
新左ヱ門は、普段は決して口数は多くない。その師が、口を開いた。
「金吾」
「はい」
「遥とはその後はどうだ」
ごとんっ
「うわあっ!?し、失礼しました!戸部先生、大丈夫――…」
「………」
ずきずきと地に打った額をさすりつつ、戸部新左ヱ門は金吾に支えられて再び歩き出す。すごく痛い。
「――それで?」
「そ、それでというか…っ、なにもありません!相模の父は何も言ってきませんので、我々も変わらず戸部先生のお傍に!」
マイペースな質問をしてくる師匠に、金吾は上ずって応える。遥の場合、正式な後継人は学園長ではある。が、目の前のこの方もその地位と心情をもっているのである。
「報告も遅くなり、剣の道も未だ半端だというのに、申し訳ございません」
「報告など、最後でかまわん」
戸部新左ヱ門は、弟子の狼狽ぶりに苦笑した。まだまだ修行が足らないと思う一方で、遥がこの弟子を選んだことに安心しているのも事実。
「すみません……」
「金吾、女子供というものは不思議なもので、煩わしいとおもうときと、たとえがたく慈しみたいとおもうときがある」
「どういう?」
新左ヱ門の言葉に、金吾はパチパチと目を瞬かせた。
「愛とは不思議だ」
「は、え、あの…?」
「わたしも、お前たちに救われている」
「は…、私どもが戸部先生を? ……ああ、たとえば今のような? 確かにお腹をすかせた時に傍に誰もいないというのは致命的だと思いますが」
「いや、そーゆーことじゃなくて」
見当外れの事を言い出す金吾に、戸部新左ヱ門は下がっていた肩を、ますます下げた。
「遥の父上も、こうして私に肩をかしてくれたものだった」
「遥の……」
「あれも昔は大人しい娘だったのだがな」
「大人しい?」
果たしてどこで道を誤ったのか。
それとも猫をかぶっていたのか。
「遥の幼い頃の話は、あまり聞いたことがありませんが……。やはり、話すのは辛いのでしょうか…」
「金吾が聞かないからであろう。あれは聞かぬことを喋る娘ではないよ」
あばら家並の我が家の前で、手を振っている遥が見える。
あそこまで行けばご飯にありつける。新左ヱ門は、なけなしの力で地を踏み込んだ。
.
