八重垣
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「お通しください、先を急ぎます」
「そうはいかねえ」
「ちょっとつきあってもらおうか」
山賊たちはにまにまと笑って女の前に立ち塞がっていた。
道中、この女が一人なのは確認している。
笠を目深にかぶる巫女だった。
渡り巫女なら、なにかしら金目の物をもっているかもしれない。
それでなくとも…、と、盗賊たちは下卑た笑いを浮かべる。
女であれば売り物になる。
艶やかで豊かな黒髪、きめ細かい肌。
整った鼻梁に細い頤。
先ほどの凛とした態度も、手折る手ごたえがあっていい。
売り物には十分、と算段した。
その時だった。
「そのくらいにしておけ!」
「ほんっと、若いお嬢さん一人を大の男が囲んで何をやってんだよ」
降って湧いた第三者の声に、女の方は一歩下がり、男たちは獲物を構える。
「なんだ…、お前ら!」
「邪魔をするな!」
「痛い目をみたいのか!」
口々に騒ぐ山賊たちに、団蔵はため息をついた。
「まったく…、どうする? 金吾」
「どうするって――…決まってるだろう」
女の方を庇うように背後に回すと、金吾はスラリと刀を抜いて構えた。
「下がっていてください」
「――…!」
中段に構えて立ち合う。
重い刀にもかかわらず、剣先がまったくぶれていない。
「厠掃除確定だな、金吾」
「ああ」
「まあ、こうなればお約束という事で」
腰に下げていた二本の警棒――鼻捻を装備すると、団蔵はそれをビッと付きだした。
ばさり、と鬣のような髪が波打つ。青鹿毛のような、その毛並み。
「全力を上げて敵と戦う!!」
「来いっ!!」
気がつけば、立っている者は自分たちしかしない。
「あれっ?」
「ん?」
山賊たちをたたきのめしている間に、背後にいたはずの女が消えていた。
無残にも、二人にボコボコにされた山賊たちは、獲物を放り出して逃げだしていく。
会計委員長、加藤団蔵。
体育委員長、皆本金吾。
実戦経験に富む六年は組において、仮にも武闘派を自負している二人だ。
生半可な山賊たちなど相手ではない。
「あれー? いつの間に消えたんだ、あの娘…」
「私たちに気配を悟らせないなんて…」
すっと刀を払い、鞘に納める金吾に、団蔵はにかっと笑って乱暴に汗をぬぐう。
「残念だったな、金吾。若い娘さんとお近づきになれたかもしれないのにさ!」
「興味ない」
「お前、ホントに堅いヤツだなー…。普段からそうだといざという時にどうしたらいいか分かんなくて困るぞ!」
「いらん! …というか、鍛錬馬鹿な団蔵には言われたくないんだが!」
「金吾は女運悪いから心配なんだよ。…というわけで、お先!」
「あ、ちょっと待て!」
ははっと軽く笑うと、団蔵は学園への道を駆けだす。
もう厠掃除は確定なのだが、傍らの委員長には負けたくない。
「に、しても、このあたりに渡り巫女がウロウロしてるなんて…。案外、忍術学園に用事があったのかもしれねえな」
団蔵の言葉に金吾もああ、と呟く。
ならば、気配もなく消えたわけも分かるというもの。
同業者だったのかもしれない。
そういえば、山賊相手にも一向に引く気配がなかった。
「…敵か?」
「さあ。お客様かもしれないぞ!」
夢中で気がつかなかったが、想い返せばどことなく――。
背中に聞いた、息を呑む声なき声。
それに――。
「あ…」
視線の位置が変わって気付かなかった。
しかし確かに見覚えがある。
何の事はない。自分の背が、伸びているのだ。
金吾の足が鈍った。
「名前…」
呟いただけで、うずく。懐かしい名前だった。
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