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「よお、元気かー」
聞きなれた声に振り返ると、そこには良く知る人物が立っていた。
面長の顔だち、ふわふわの髪の毛、年の頃は二十歳になろう。
「は、鉢屋先輩…」
「お、名前じゃないか、相模に出ていたんじゃなかったのか! 帰っていたのか、なんだ随分大人っぽくなったな」
「ちょっと――っ、抱き寄せるのやめてください、いい年してっ! もう大人でしょ! 学園は卒業できても変態は卒業できないのですか!」
「待て、どさくさにまぎれて何と言う事を――…」
「し、失言でございました…。と、とにかく、お放しください…っ」
「まあまあ、この存在感の無い胸じゃ夢幻でないとも限らない。もう少し確かめさせて――」
「ちょっ、どこ触って…っ!」
「いやあ、少し見ない間に随分と綺麗になったなと思って、先輩寂しくなってな。女の子はどう化けるかわからないな。本当に」
「私は今、褒められているのですか、馬鹿にされているのですか!」
「どっちもだな」
「ちょ、や…っ、彦四郎ーっ、庄左ヱ門ーっ!!」
この先輩にだけは敵わない。
助けを求めて級友たちを振り返ると、目の前で繰り広げられるセクハラをぼーっと見ているだけだった。
名前を呼ぶと、ようやく彼らは我に帰る。
「私たちが鉢屋先輩に敵うわけないだろう」
「庄左ヱ門の薄情者!」
「もー、鉢屋先輩、いい加減名前で遊ばないでくださいよ。ほら、離れて離れて!」
仕方ないなあという具合で名前を鉢屋三郎の下から引きずりだすと、しっしと三郎を追い払う。
「彦四郎…私はもうお嫁にいけないかもしれない…」
「大丈夫だ、名前。その時は鉢屋先輩か庄左ヱ門がきっと引き取ってくれると思う。どっちがいい?」
「ど、どっちも嫌だ」
「あのな、先輩もちょっと傷つくんだがな?」
「不愉快だよ、名前」
ひとしきりじゃれたところで「ところで」と彦四郎が尋ねる。
「ところで鉢屋先輩、お仕事帰りですか?」
鉢屋三郎が級友不破雷蔵とともに、いずこかの城に仕えている身なのは知っている。
「ああ。すぐ戻らないと。でも立ち寄って良かった。名前に会えたし」
くしゃりと頭に手を置かれて、名前はくすぐったさに目をそらした。
鉢屋三郎は委員会の先輩として長く仕えた。我儘でひねくれ者だがいっこうに憎めないのはこういう所があるからだ。
「庄左ヱ門、学園長先生はお元気か?」
「はい」
「庵?」
「はい、ご案内いたしましょうか?」
「いいさ。勝手に行くから」
ヒラヒラと手を振った三郎は、もう一度名前の頭をなでる。
「よしよし、またな。すぐにまた遊びに来るからな」
「…もう、髪の毛ぐちゃぐちゃにしないでくださいよ。後輩たちの就活に影響するんですから、卒業生としてしっかり働いてきてくださいね!」
憎まれ口を叩きながらも名残惜しげな自分を見送るその様は、素直に可愛いと三郎は思った。
最初は綺麗になったとも思ったが、しかしやはり、可愛い。
――次はお団子以外のお土産でも持って来てやろう。
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