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「入門表にサインください!」
「…………」
「お嬢さん、初めての方ですか? 忍術学園のお客様には、みんな名簿を書いていただいてるんです」
ぱちぱちと目をしばたいてから、名前は目の前の男のニコニコした顔にうなだれた。
――金吾といい団蔵といい、しばらく会っていなかったとはいえ、ちょっとショックですよ…、小松田さん…っ!
「小松田さん!」
項垂れていると、奥から澄んだ、良く通る声が事務員の名を呼んだ。
その声に、小松田秀作ではなく名前はびくりと肩をゆらす。
「小松田さん、吉野先生がお呼びで――…」
山吹色の「審判」の腕章をつけた生徒が二人、駆けてくる。
「あ…」
「え!?」
山吹色の腕章は、学級委員長委員会の生徒である。
みるみる目を見開いた彼らに、名前は笠を上げて返した。
「ひ、久しぶりだね、二人とも」
「ああ、うん、久しぶり」
「か、帰って来たのか!?」
二人に挟まれた事務員の顔には「?」が張り付いている。
名前はようやく安堵した。
「お、おかえり、名前…!」
「元気そうだね」
「ただいま。…彦四郎、庄左ヱ門」
焦りながらも秀作に説明する彦四郎と、動揺も見せずにニコッと笑う庄左ヱ門に名前は眉を下げた。
あまり変わっていないようだ。
「ええ、名前ちゃん!? 嘘だあ、ホントに名前ちゃん!? 綺麗になっちゃって分かんなかったよ!」
パチパチと目を瞬いた小松田秀作に、名前は「嘘だってなんですか!」とムキになって返した。
庵で学園長と担任二人に面会し、労われた後。
名前は学級委員長の二人が勧めるままに、在学中の鉢屋三郎が手に入れた『学級委員長室』に腰を下ろした。
「――…よく帰ってきたね、名前。風魔留学はどうだった?」と、庄左ヱ門は穏やかに笑った。
「うん、大変だったけど、いろいろ為になったと思うよ」
「あとで聞かせてくれよ」
勉強熱心な彦四郎に、名前は頷く。
その間に、庄左ヱ門はスっと名前の前にお茶を置く。
「それは良かった」
「……………し、庄左ヱ門、あの、目が怖いんだけど…」
「いや、半年前のあの日、奥ゆかしくも慎ましく君が急に学園を出て行ったから、心配していたのさ。留学の話は急に決まったらしいけど、共に学級委員長を務めてきた私たちに当日まで何も言わないというのはショックだったよ、かなり。比類する者ない優秀な君の穴を埋める為に、そのあと私たちの仕事が倍になった事はさておきね。留学中に何か問題起こしてすぐに帰ってくるんだろうなとおもっていたから、意外と長続きしたね。まあ名前の事だから、どうせ猫かぶってたんだろう。昔から外面いいから学外の人気は上々なんだよね、傍から見てる分には面白いんだけど、傍から見られないとちょっと面白くないというか、それはまあいいんだけど……元気だったかい?」
「庄左ヱ門と話すまでは元気だったよ…」
外面云々はお前に言われたくない。
そんなツッコミを懸命にも飲みこんで、名前はお茶をすする。
彦四郎が逆らうな…と口パクで言ってくるまでもない。
「何よりだね」
庄左ヱ門は「名前」とかかれた湯呑みを学級委員長室にとっておいてくれたらしい。
「こっちはみんな相変わらずさ。今日は学園長の突然の思いつきによる委員会対抗オリエンテーションがあって……。なあ、名前」
「ん?」
「会いたかった。帰ってくるの、待ってたよ」
にっこりといつもの余所行き笑顔ではあるが、これが庄左ヱ門なりに照れかくしだというのは分かっている。
「…庄左ヱ門」
「なんだい?」
「…いや、お前も、変わっていなくて、何より」
「ありがとう」
ほんのりとくすぐったそうにする名前に、傍らの彦四郎がこほんと咳払いをする。
「庄ちゃん、僕の存在、忘れてない?」
「あと、彦四郎も君がいないと寂しいって言ってたよ」
「いい言ってない!」
「ありがとう、彦四郎。わたしも会いたかったよ」
「いや、別に……。…もー、いい、別に…どうでもいい…うん、帰ってきてくれて良かったよ……」
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