門入り
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最後の立ち合い勝負は、名前の勝ちだった。
夜も浅い。
井戸で顔を洗っていた金吾に「風魔に留学する」と告げると、え、と口を開けたまましばらく動かない。
「出発は――…」
「明日」
「なんでそんな、急に…、皆は知ってるのか?」
「他の皆には明日言う。金吾には……先に相模の話を聞こうかと」
「そ、そうか…」
冴えた月が天上にかかる。
日中はまだ暑いが、水底の冷たさや月の影の白さは、確かに秋を思わせた。
「じゃあ、これからは静かになるな」
「金吾、泣くなよ」
「泣いてないだろ、驚いてるだけだ。…次の秋休みは、また一緒に修行かと思っていたから…」
「ごめんね。剣の修行頑張って。それから、戸部先生をよろしく。――…くれぐれもよろしく…出かけるときはおにぎり忘れずに…、くれぐれも戸部先生にカエルとかネズミとか近づけちゃダメだからね」
「それは――…、が、頑張る…」
「あんまり委員会の後輩に厳しくしないようにね。休みだからって一晩中刀を振ってるのはやめなさい。遠出する時はなるべくお腹の薬も忘れずに、あ、怪我したら放っておかないで必ず止血、それから薬を塗ること。破傷風になってもしらないからな。あと内職はあまり根詰めないでそこそこに。大家さんのうちの一番下の子がまた生まれたみたいだから、今期は子守り押し付けられるかもしれないよ。それと、大家さんには家賃とご挨拶の新米の手配してあるから、秋休みに入ったら持って行っておいて。それと休み中の家計の方だけど、戸部先生に――…」
「わかってる、大丈夫だ、子供じゃないんだから――…」
煩いと手を振ると、名前は「そうだな」と頷いた。
「金吾なら、私がいなくても大丈夫だね」
名前が部屋に戻ろうと立ち上がると、ぐいっと肩を引かれた。
「名前、あのな――…」
「なに?」
「…あ…いや…、頑張って来いよ」
言葉が少ない。
言いかけてやめたのはどんな言葉だったのか。
名前はわずかに迷って、結局聞かなかった。
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