霞
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拝啓、大川平次渦正様。
かっこん、と庭先の鹿威しが鳴る。
最近は、すっかりと水がぬるんでいた。
墨痕鮮やかに綴られた手記を認めて、学園長である大川平次渦正は頬を緩めた。
可愛い生徒が一人、半年間の風魔留学から帰還する予定だった。
「ふむ、少しは成長したのかのう」
皺をのばしながら手紙に目を落とす。
墨痕が鮮やかな、見事な手である。見慣れた、馴染んだ筆跡でもある。それが、紙に落ちていた。
「箱根が通れず、山の方を行くと書いてあるのう」
学園長の言葉に「新学期にはギリギリ間に合いませんでしたな」と、六年ろ組の実技担当教師である日向墨男は、笑って返した。
斜堂影麿は「また………、騒がしくなりますね………」と、すでに燕の翻る空を見て、陽射しに目眩を覚える。
「しかし学園長、大丈夫でしょうか、あの子は。山側からとなれば、まだ雪もある。迎えに出た方が良かったのでは?」
「わしもそう思ったがの、すでに手紙で断られたわい。道中、お土産を手に入れながら戻りますと」
「相変わらず…、手回しの良い子ですね………」
「まあ、良かろう。この文が、やがて賑やかな季節を連れて来よる」
ひらり、と季節外れの梅の花が落ちた。
「ほう、なかなかの趣向じゃのう」
「偶然だと思いますがな」
「はよう、帰ってくれば良いの」
学園長の視線が、文に落ちる。
可愛い生徒の帰還を、心より待ちわびているようだった。
「日向墨男先生、鎌倉は何が美味いかのう」
「お土産を楽しみにしすぎですっ!!」
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