風魔の五年生男子の名前
はちまん
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長床にて
「夜中に走らせてしまって申し訳なかったの、竹谷八左ヱ門くん」
「いいえ、これくらいのことは…」
金楽寺への急ぎの荷物を届けに、おれ――五年ろ組の竹谷八左ヱ門は夜中のうちに学園を出た。現在、うっすらと東雲が染まる。無事に和尚様に荷物を手渡すと、庫裏に行くように労ってくれた。
「幾分疲れているようじゃの」
「い、いえ!」
自慢じゃないが、同級生の中では体力派だ。このくらいじゃ疲れたりしない。
そんなおれが気落ちしているにはわけがある。現在、おれは好きな人がいる。今日はその人がいるクラスと合同演習の予定だったのだ。
それが急遽、この御使い。
ジャンケンで負けたから仕方ないんだけどな。畜生、三郎のヤツ…。
「長床衆も起きだしている。一緒に朝粥でもとって、少し休んで行きなさい」
「あ、ありがとうございます!」
長床衆というのは寺院の客僧のことだ。多くの古刹がそうであるように、ここ金楽寺も衆派や教義には執着しない。庫裏へ向かうと、湯の匂いが廊下にまで流れてくる。
「すみません、朝餉をご一緒させていただいてもよろしいでしょうか」
そう、おれが中にいた長床衆に声をかけると…。
「ああ!おめーもしかすんと!」
最奥から、知った声が聞こえたような気がする。しかもえらい坂東訛り。
いやな予感‼
おれは勢いよく踵を返す。すると、すとんっとおれの前に白い影が立ちはだかった。
「おー、やっぱり八谷八左ヱ門じゃんかよ!いさしかぶりー!」
「やっぱり、お前か、高取与一っ!!」
こいつは風魔流忍術学校の五年生だ。
話によると、与四郎さんの幼馴染で後輩だと言う。ノリは軽いが、これでなかなかの実力者であるというから人間と言うのは分かんねえ。
「おれは竹谷だ!竹谷八左ヱ門!同業者なら名前くらいちゃんと覚えろよ!」
「八左ヱ門、元気だったかー?」
「お前、何でここにいるんだよ」
「いやー、験者の修行中で、たまたまヨー!」
「山伏の修業なら山で伏してろよ…相変わらずノリが俗っぽいな」
「いや、腹壊しちまってナ、いてーのなんの」
「え、大丈夫なのか?キノコにでもあたったのか?」
「あー、しし鍋食い過ぎただけだかんな!」
「なによりだけど、それでいいのか、風魔忍者」
彼らは深山高岳を尊び、山に臥し石を枕にして眠る。ゆえに山伏。役行者を祖とする、広い見聞と知識を持ち聖と俗を行き来するのは験者という。験者は所帯を持つ者も多い。たしか一年のころ、忍者の歴史の授業でそう習った。
でも、今はたいして差がないとか。
「…にしても八左ヱ門は、何で金楽寺に?」
「いや、急ぎの荷物届けに来て――」
「ふーん?」
「ああ、いたいた、与一どの!」
おれが質問に答えていると、金楽寺の子坊主がぱたぱたと駆けてくる。
「駄目ですよ、寝間を出られては。お腹の具合は大丈夫ですか?」
「はぁすっかりいーんだ!」
「しかし、安静にしていなくては。養生なさってください。今、お薬を煎じてきましたので」
「いんやー、腹いた、食べ過ぎだったみてーで申し訳ねえ」
「そうなんですか?せっかく忍術学園の生徒さんに御薬を運んでいただいたのに…」
御薬…。
あの荷物の中身は、もしかして腹の薬だったのか。…じゃあ、もしかして。
「――おい」
「え」
「お前の腹痛は単なる食い過ぎで、じゃあなんだ、おれが運んだ腹の薬は、無駄だったと、そういう…」
「え、ちょ、八左ヱ門――」
「今日の授業、つぶしてまで来てやったっていうのに――」
ぎゃああああっ、という風魔者の悲鳴は、静かな庫裏に似つかわしくなかった。
「いくらなんでも虫壷なげるこたねーべ!!」
「あと一匹、どこ行ったー、出て来ーい」
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