風魔の五年生男子の名前
はちまん
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水と石楠花
ぱちん、とおれは剪定ばさみで枝を落とした。
シャクナゲは、薄紅の小さな花。
空には、ツバメがくるりとひるがえる。
そろそろ田も水を張るかなと思っていると、足元にじゃれつく毛玉がある。
「またお前、怪我してるのか」
この前孫次郎が拾ってきた狼のこどもだった。腹を撫でると、嬉しそうに身をよじる。
狼というのは犬と違って、吠えるけど鼻をならしたり鳴いたりしない。
目の前のコイツも、なりは小さいけど、ちゃんと狼なのだ。
ちびのくせに、大人の狼と一緒に転げまわるもんだから、コイツには怪我が絶えない。
擦り傷ばっかりだな、と長い毛足を指ですいていると、背後から気配がした。
「はっちざーえもーん!」
「おう、久しぶり」
「なんだ、あんま驚かねーのな、つまんねー」
「もう慣れたぜ、いい加減。風魔忍軍の神出鬼没ぶりには。で、今回はどうした」
「京の岩谷寺へ行ってきただーヨ。その帰りだ」
「岩谷寺?」
「山伏ネットワークがあってよ」
パタパタと手を振る名前に、おれは眉をひそめる。
山伏ネットって一体どれくらい広いんだろうか。
「にしても、見事なもんだな、シャクナゲか。里に植えるにゃ忌み木だべ。八左ヱ門にこんな園芸の趣味があるとは思わなかっただーヨ」
「園芸じゃねえよ、ここは毒草園だ」
「毒…」
「シャクナゲって毒あるからな、山で見てもうっかり口に入れるんじゃねえぞ」
「そっか、シキミにヒトリシズカ…、あっちにゃトリカブトか。よく見りゃけっこうえげつねーもん植わってんな。毒草園の手入れもおめーがすんの?こき使われてんなー。相変わらず」
「毒草園は毒虫の餌場だからな」
毒草園の植物を一目で言い当てるあたり、コイツもただ山の中駆け回ってるわけじゃないらしい。
そういえば、そもそも山伏は薬学に強いんだった。
「いや、お前が薬学に」
「いやー、おめーが薬学に強いイメージなかったわー、見直す、ごめん」
「お前おれのこと馬鹿だと思ってやがったな…」
「このお土産無駄になっちまったかなー」
ちゃぷ、と竹筒に入った水?酒?を渡された。
つーか、ただの馬鹿だと思ってたことには否定してほしかった。そんなことないけどって言え。せめて。思ってなくても。
「なんだこれ」
渡された水筒を覗き込んだ。
試しに舐めてもみたが、匂いはないし、ただの水じゃないのか。
「霊泉でな、汲んできた。どんな病もたちどころに治すってー神水さー」
「神水か、なんだか霊験あらたかだな」
「頭からひっかぶっといーと思ってヨ」
「はあ?」
「これで八左ヱ門の頭もちっとは良くなんべーと!」
「余計なお世話だこの野郎!!」
「それと、もしかすっと、そのヤキソバのような髪の毛きれいになっかもしんねーとも思った!」
「ボサボサ髪を病のように言うんじゃねえ。だいたい――、ツヤサラストレートなおれを見たいのか」
「………」
「………」
「見たかねーナ」
「だろう」
「おらが悪かっただ。すげー悪かった…」
「分かればいいんだ、分かれば」
結局「仔狼が怪我してるから、そいつに使わせてもらう」ということで、傷口を神の水で洗った。霊験あらたかな神水はおれの髪にも頭にも使われなかったのである。
…まがり間違ってサラストになっちまったら怖いしな。うん。
※岩山寺は賀茂上流の志明院のこと。いろいろ伝説のあるお寺で、面白いです。
楼門の扁額は能書家である小野道風の書だといわれています。
(志明院を号を与えたのが後奈良院なので、後奈良院という説もあります)
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