風魔の五年生男子の名前
はちまん
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天元
「はちざえもーん、あーそーぼー!」
「うるせえええ!!!」
おれは現在、非常に忙しい。
「毎度毎度、なんで切羽詰まった状況の時に遊びに来るんだお前は!」
「なんだ、刀が抜けねーの。手入れ不足だべ」
「ちっがうわ!!」
切羽が詰まるような刀なんて、使ってねえ。
明日、提出の課題がまったく終わっていないのだ。
見りゃ分かるだろうが!!
「おー、こえー。んだよ、はるばる相模から遊びに来てんのに」
「遊べない!おれは忙しい!邪魔するな!」
これから大山兄弟(オオトカゲ)の小屋の修繕作業も残ってるっていうのに…。
別に課題が終わらないのを委員会のせいにするつもりはないが、それでもやっぱり最上級生の委員長は欲しいなあと思ったりもする。
誰かいねーかな。一緒に生物委員会をやってくれる奇特な生徒。
思い浮かぶ顔は、みな何かしらの委員会の委員長におさまっているし、他の上級生がやってくれるとは思わない。
五年生の他のメンツも、修学に忙しいと軒並み断られてしまった。
四年生はアレで手元にいれば重宝するんだろうが、引き抜くわけにはいかない。
何故かとは、尋ねないで欲しい。…六年生が怖いからに決まってる。
「そんで?課題って何?」
「算術」
苦手なんだよな。
この、図形の面積とか長さとか求めろってやつ。
「んー?」
そういってのぞき込んできた与一は、少しの間おれの手元のプリントに目を通してから「けっこー簡単じゃんか」と笑った。
………。
………今なんて。
「お、お前、これ解けるのか!?」
詰め寄るおれに、与一はぱちくりと目をしばたいてから、にっこり笑った。
「おら得意だよ?」
「ちょ、これ、教えてくれ、いや教えてくださいっ!ヒントだけでも!!」
プリントを手渡す。
描かれたいくつかの円や周囲の辺の長さを求めろと言う問題だった。
甲、乙、丙、丁…と長さや面積が示されているのだが、いかんせん、さっぱり分からない。
「あー、こいつは長さの計算しろっつーんだべ。ヒントは…こことここに補助線引っぱんだ。そーすんとー…」
「あ、そっか、二辺の角度が一緒なのか。ということは…」
「ほらなー」
「お前、頭悪いんじゃなかったのか!」
「自慢じゃねーけど、活字に向かうより泥田んぼに埋まるほーがマシ!」
さも、当然であるかのように与一は返してくる。
胸張るなよ。
「いや、でも、石垣の高さとか川の幅とかよ、測量すんのに算術使うべ。近くに立ってる木との高さとかでヨー。円の計算はそれの応用な」
「いや確かにそうだけど…。お前がこういうのできるイメージ無かったぜ」
「田舎者なめんなよ。仲間が通るのに、先行して簡易の橋とかかけることもあんだよ。あと川の測量なんて違えようもんなら、先輩にぶっくらされちまう。…必死なのよこっちも」
「苦労してんだな…」
確かにコイツの先輩である与四郎さんは、そういうところ、厳しそうだ。
「にしても、意外だな」
「そっか? こーいう術式が額におさまってんの見たことねーか? 寺に奉納されてんだけど」
「奉納?」
「そーそー。算額っての。おらんちのほーでは、難しい算術の問題が解けると、問題を額に入れて神社とか寺とかに奉納すんだ。そういうのはすっげー難しくて解けねえんだけどナ。
仏様に捧げるくらいだ、もし解けたら綺麗な数式なんだろーな」
おらんちのほーって、寒くて麻も育たないという例のど田舎か。
整然と並ぶ、矛盾を含まない式。
眺めてると、コイツの言ってた「綺麗」の意味が分かる気がした。
「とにかく、さんきゅー!助かった!」
「おー!」
「ランチ奢る!ついでにせっかくだから、おれの委員会の奴らに紹介してやるよ!」
「お、マジで!」
ちなみに、本日の委員会活動は毒虫大捜索+大山兄弟の小屋の修繕だった。
与一のやつは『遊びに来たはずなのになんか手伝わされてねーか?』とボヤいていたが、食堂のランチ奢ったんだから許せ。
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