変装名人の憂鬱
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「遥先輩が、帰ってきてるぞ!」
五年ろ組、長屋の部屋の入り口には二人の名前が架けられていた。
鉢屋三郎。
不破雷蔵。
鉢屋三郎が、連休明けのスッキリしない頭を引きずって、井戸に向かおうと手ぬぐいを取ると、唐突に部屋の襖が開いた。同じクラスの竹谷八左ヱ門が、常日頃からボサボサの髪の毛を振り乱して、それだけ叫ぶ。
今だ布団の中にいた、不破雷蔵は、寝ぼけ眼で「ふえ!?」と身を起こし。――また再び布団をかぶる。
「三郎、聞いてんのか、遥先輩が…」
「…知ってるよ」
不破雷蔵と同じ顔、同じ髪の毛。
しかし、表情は厳しく歪めて、学園一の変装名人、鉢屋三郎はそう言い捨てた。
「……半年前、私には何も言わずに出て行ったくせに」
「おはようございます」
「………」
「おばちゃん、腹減った!」
食堂の奥から出てきた割烹着姿おばちゃんは、目を丸くして遥を見た。
「遥ちゃん!」
「お久しぶりです、おばちゃん。蓬川遥、先日、相模から帰りました」
遥がぺこりと頭を下げると、食堂のおばちゃんはカウンターの外まで出てきて、にこにこ笑う。
「あらあ、お帰りなさい、遥ちゃん。ずいぶん女らしくなっちゃって」
長次、小平太、遥の、ろ組が三人でご飯を食べに来るは久しぶりだ。久しぶりの眺めに、食堂のおばちゃんはおおらかに笑った。
「やっぱり、女の子は少し見ないうちに綺麗になっちゃうわね」
「ほんとですか?」
「嘘に決まってる!」
ごっ。
小平太の悪気のない軽はずみな発言も、にこにこと裏拳を決める遥も、それを横目で見やる長次も久しぶりだった。
「………小平太、大丈夫か」
「口内炎になりそうだ!」
「………そうか」
「じゃあ今日は、遥ちゃんの好きな納豆をサービスしちゃうわ」
「ほんとですか? おばちゃん、ありがとうございます!」
遥が、声を高くした時だ。
「蓬川先輩!」
背後から、そう嬉しそうな声がした。
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