若旦那の鍛錬
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「何をしているのか、聞いてもいいか?」
「遥先輩!こんにちは!」
元気に挨拶をしてくる加藤団蔵に、おもわず「ああ、こんにちは」と返してしまう。
「いや違う、花丸元気は大いに結構だが、こんなところで何をしているんだ!」
「鍛錬です!」
アヤメの紫の、向こう。
蓮の葉揺れる水面に、水浅黄の制服が、笑っている。
「た、鍛錬?」
「この間、委員会がたたってぶっ倒れたときは、大変お世話になりました!」
「ああ、うん、それはいいんだが…。とりあえず、そこで何をしているんだ…」
「だから、鍛錬です! 体調不良に負けないように!」
「あ、そう…。…その後の体調はどうだ?」
「もう、すっかり良くなりました!」
「そうか。――じゃあ、とりあえず、池から上がってこい。それから、その頭の皿は取ろうかな」
「はいっ!」
ざぷん、とひと沈みしてから、加藤団蔵は池から上がってきた。
何故か何故か。その頭上には、白い皿。
その皿はなんだ、と突っ込みを入れたいところだが、「え、何がですか?」と不思議そうに尋ねられ返されるのが関の山な気がする遥は、大人しく飲み込んだ。
とりあえず、河童のつもりなのだろうと、自己完結する。
「河童にあやかっても何にもならないぞ」
河童はもともとは河伯という川の神だというが、この神は生贄を求める洪水の神だ。
「ぼくんち、馬借なので」
「馬を飼っているならば、河童は天敵じゃないか」
「馬にちょっかい出す気持ちがわかるかなーって」
「妖怪の気持ちなんてわからなくてよろしい。それにしても、加藤団蔵、学園長の庭園の池で特訓って……」
「ほえ?」
――学園長の命を狙う暗殺者かと思って、危うく斬り捨てるところだった。……とは言えない。
「危ないぞ、その、いろいろ」
「でも、何故か鍛錬に使っていた学園の池が、しばらく使用禁止になったじゃないですか」
ぎくり、と遥は肩を縮ませる。
先日、鍛錬池で鍛錬中にいろいろとやらかして、池を半壊させたのは記憶に新しい。
まさか、自分たちの鍛錬がもとです、などとは言えない。学園長からこっぴどい御説教の後に、反省文を提出、かつ、一か月の厠掃除が申しつけられた。
とりあえず、学園の平和と安寧、そして最上級生のヒエラルキーを維持するため、一応用具委員には緘口令をだしてあるが、だいたいの生徒には、ばれているだろう。
「加藤団蔵、とりあえず身体を拭こうか」
「大丈夫ですよ、水場はけっこう得意なんです」
「水場で眠れるようになったら、最後、文次郎みたいになるぞ。とりあえず、下級生のうちは無理は禁物だ。それよりも、しっかりとした目標をもって――」
「ぼくんちは、馬借なんですよ」
「それは、さっき聞いたけれど」
「野生の馬って、水辺に多いんですよね。うちの愛馬・能高速号のお嫁さんを、自分でとっ捕まえたいと思って。だから、今のうちに水場でも眠れるように特訓を」
「思ったよりしっかりとした目標があった……」
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