学級委員長の要望
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忍術学園は、あくまでも学園だった。
忍びの学校とはいえ、学年が低いうちは一般教養の教科も多い。
本当の忍びの技は、口伝で後世に伝えられる。記録や文章には残さず、その里や一族で代々受け継いでいくものだ。
伝えられ磨かれていく技は、里ごとに得意分野があって、諜報戦略が得意な伊賀、薬や医学にたけている甲賀、戦闘に特化した風魔など、さまざまであった。
本腰を入れて学園が忍びとしての勉強を教えるのは、生徒の体力・気力の充実していく後々のこと。
低学年のうちに叩き込まれるのは、一般教養および、武芸だった。基礎体力を培い、素養を養う。
そんなわけだから、教科別の試験というものが存在する。
平均点数が最も低いクラスは、どこか。
多くのものが即答する。黒木庄左ヱ門が学級委員長を務める、一年は組だ。
では、平均点数が高いクラスは。これも、即答できる。
今福彦四郎が学級委員長を務める、一年い組だった。
校庭の隅で、彦四郎はプリントとにらめっこしていた。
「困ったなあ」
「どうかした?」
「えっ!?」
背後から唐突にかけられた声に、飛び上がった。
まったく気配を感じなかったのだ。
松葉の緑。その制服を着ていたから、六年生のはずだが、その顔は見たことがない。
「あ、いえその、宿題が分からなくて」
「どれどれ、――ああ、これは兵法問題じゃないか。一年生にしては、ずいぶん難しい宿題だけれど」
「安藤先生は、ちょっぴり難しいですよーと笑っておられました」
「安藤夏之丞先生、相変わらずのようで……。えーと、この問題は『声東撃西』っていう古典があるんだが、知っているかな」
「あ、はい」
「し、知っているのか、優秀だな……」
「図書室で読みました」
「なら、図書室でもう一度借りてくるといいよ。出典がわかれば後は自分でできるだろう」
「あ、ありがとうございました! ぼくは、一年い組の今福彦四郎です」
「私は――」
目の前の上級生が名乗る前に「あっ、いたぞー!」という声がした。
「しまった、見つかった。実は上級生は鬼ごっこの最中なんだ」
「六年生の本気鬼ごっこ……」
「そう。つまり、忍びとは『三十六計逃げるに如かず』だよ」
「つまり逃げるが勝ち……?」
たった今、三十六計のひとつ『声東撃西』を口にしたというのに、如かずとは。
顔を引き攣らせた彦四郎に、見知らぬ六年生は「またね」と身を翻した。そのまま、疾風の如く去っていく。
「あっ」
名前、聞けなかった……。
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