第一章 誰が為
お名前変更
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あれから10年ほど経って、私は今、東京で一人暮らしをしながら働いている。
それなりに働いて、それなりにお金を稼いで、それなりの生活をする、大して変わらない平凡な毎日。なにか物足りない、ただただやってくる毎日をやり過ごすだけの日々を過ごしている。
ただ、未だにあの事件を夢に見る。
あの時の感覚が蘇る時もある。自分の目の前にいるのが化け物だとわかった瞬間の恐怖感。あの感覚が。
そして、たまに街中や、仕事からの帰り道にその化け物に見られている気がする時もあった。でも怖くてそれを直視は出来ないから、知らないフリして早足でその場を去る。
至って普通の人間のはずなのに、あの時の事件だけが、私を普通の人間じゃない気にさせる。
そんな私の生活に変化が起きた。
いつも通り仕事をこなしていた私は、その日、上司に呼びつけられた。
みんなが仕事をしているオフィスの中に、上司の怒鳴り声が響き渡る。
「秋空! お前、なんでこの企業との契約を取ってこなかったんだ!」
この上司は私の苦手な人。契約件数でしか部下を評価していなくて、契約が取れなかった社員をいつも頭ごなしに叱る。私も何度か叱られた経験があり、正直うんざりしていた。
「すみません。ですが、取ってこなかった、のではなく、取れなかったんです。」
「ひどい言い訳だな。」
「すみません。ですが、向こうの企業さんは今状況が苦しいようで、現状維持でいっぱいいっぱいだと…。そんな中頑張ってらっしゃるところに、新しくうちと契約を結んでくれ、と無理強いすることは出来ませんでした。」
「そんな理由か!相手の都合なんか関係ないだろう!向こうが倒産したってうちには関係ない。少しの間だけでも、金をとれよ!」
でた。相手のことを考えずに、金、金。
自分の会社の売り上げばかり。それで他の人が困ろうがこの人は気にしない。
すみません、また後日行ってきます、と、適当にお茶を濁して自分の席にもどった。
私のしている仕事ってなんなのだろう。誰の役に立っているのだろう。私はなんのために働いているの?
最近は、上司がきっかけで、こう考えることが多くなった。