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「秋空さん、伊地知です。失礼します。」
いじちさん…?
「桜、あなたを助けてくれた方よ。伊地知さんって言うの。お礼を言いなさい。」
伊地知さん、と呼ばれた人は、ほっそりとした男の人で、スーツに眼鏡姿。サラリーマン、って感じの人。
「伊地知…さん。ありがとうございました。」
「いえ、たまたま通りかかって幸いでした。お怪我は大丈夫ですか?」
「はい。ありがとうございます。あの、伊地知さん。私、本当に倒れていただけですか?私、化け物から逃げてた途中で…」
そう言うと、伊地知さんは少し、はっ、とした表情をした。何か知ってる?
「桜、伊地知さんにまで変なこと言わないの。恩人なのよ。」
「桜さん、あなたはたしかに、倒れていました。それ以上のことは心配しなくていい。今あなたが、こうして生きている、それで十分です。」
そうですよね、ありがとうございます…、と母は涙を流している。
伊地知さんの言葉…。違和感を感じた。
倒れていたのはたしか。それは私も覚えてる。化け物の存在は否定していない…。でも、それ以上詮索するな、と言わんばかりの雰囲気を感じた。
「わか、り、ました…。ありがとうございました。」
ではこれで、と、伊地知さんはお見舞いの果物を母に手渡して出ていった。
この事件以降、私は裏山には近寄らなかった。そしてまちの人も山にはほとんど近寄らなくなった。
そして私は、高校生になって地元で遊ぶことはほとんどなくなった。大学生になってからはまちを出て一人暮らしを始めた。
あの事件はやっぱり私のただの悪夢だったのかも、と今は思っているが、忘れたことは1度もない。