5億の女
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「蓮水、蓮水」その遺書を握り締めたまま花梨は泣いた。阿伏兎はそこを離れ高杉も部屋を出た
「神威、ここからはお前の役目だな」そう言って
神威は花梨の肩を抱き寄せた。
「花梨、蓮水は穏やかな顔で眠ってた。自分の責任を果たしたんだと思うよ。
・・蓮水は大好きな人を守りたかっただけだ、そして自由にしてやりたいと思ってた」
神威は花梨の息が整うのを待っていた、そして蓮水の最後を思い出していた
最後の最後に神威の目を見て全て託すように訴えていた
言われるまでもなく花梨を守る覚悟はできている、
春雨の本部からも守り抜かなくてはならない存在。
花梨の日常の中で蓮水という存在は大きな存在であることは気づいていた
監視されていながらもそれを許していたのは一人でいる花梨のそばに常に寄り添うことをやめなかったからだ。
きっと会えばまた泣き崩れるだろう。
でも、蓮水は土に還る前に花梨に会いたいだろうと思った。
ーーーー神威が同族でもない、他の惑星の人間を思いやることは珍しい。
「蓮水は棺に入って今は保管されている、両親が引き取りに来るまであと2日あるそうだよ
。。ちゃんとお別れした方が良くないか?蓮水も会いたがってると思う。」
そう促し、引き寄せ抱きしめた。
ーーーー神威は腕の中で息を整えるように呼吸をする花梨の背中をただ優しくさすり続けていた
やがて、「会いに行ってくる」はっきりと花梨は告げた。
・・・・・・・・・・
安置室に置かれた蓮水の棺は軍旗をかけられていた。
花梨は一人で入るといい、神威すら入れようとしなかった。
軍旗を外し、棺のガラス扉を開けて、蓮水に手を伸ばしその冷たさにもういないんだと再確認する。
「蓮水、いっぱい言いたいことあるのに出てこないよ・・でもやっぱりそばにいて欲しかったよ」
穏やかに眠っている蓮水の顔はいつもの優しい顔。
”神威殿がいらっしゃるでしょう?”きっと生きていれば蓮水はそういうだろう。
でも神威と蓮水は全く違う存在でわがままでも必要で大切だった。
ポケットに入れていた蓮水の遺書を泣きながらもう一度読み返して
何度も蓮水の名前を呼んで泣いた
そして嗚咽がおさまりかけた頃、大きく息を吸って天を仰いだ。
立ち上がり蓮水に近づきその額に自分の額を合わせ頬を両手で包みこむ。
「蓮水、ありがとう。支えてくれて、そばにいてくれてありがとう、
守ってくれてありがとう。
自由になる勇気をくれてありがとう。ずっと大好きだよ、蓮水」
頬に初めて、キスを贈った
涙を拭いガラス扉をきちんと閉めて再び軍旗を棺にかけた
ーーーそして姿勢を正し、そこで敬礼をした。
ドアの向こうでは神威が腕組みをして壁にもたれて花梨が出て来るのを待っていた
「大丈夫か」そう言った神威の肩に額を乗せて
「うん」とだけいうとしばらくそのまま動かなかった。
そして大きく息を吐くと「もう大丈夫」そう言った。
ーーー花梨の瞳は光を取り戻していた。
「荷物、とりにいかなきゃ。」花梨はそう言ってその足で研究所へ向かい私物をまとめた。
片付けられた室内の片隅にある箱の中にはチェスに将棋に・・ジェンガがあった
「3回勝負ですよ!」そう言った蓮水が浮かぶ。
「・今度から・・・俺が相手してやる」神威はそれを荷物の中に入れた。
そして神威がくれた石の標本見本は神威が持っていた一つをそこに収めると全部が揃った。
必要な着替えや本にタブレット(神威には何が書いてあるのかさっぱり理解不能なものばかり)も
大きなトランクに詰め込んだ。
部屋を見渡してデスクや椅子を触って少しだけ思い出に浸っていた花梨に神威はささやいた
ーーーー「あのソファで初めてキスしたんだよな」と。
そうこの部屋は蓮水との思い出だけじゃなく、神威との思い出も詰まった部屋になっていた。
ーーーあの雨の日の優しいキスから始まった。
生きたいと思わせてくれる人ができた日かもしれない。
「最初はこんな風になるなんて思ってなかったね」懐かしそうにいう花梨に
「そうだよ、俺はこんなまな・・じゃなくて・・」
ついうっかり言ってしまう神威にちょっと花梨はムキになる
殆どまな板は神威の口癖になっているのも確かなこと。
「・・また、まな板って・・・どうせまな板ですよ、スイカの種ですよ(これは高杉が言った)」
「いや、思ったよりあったのは触ってもうわかってるから、ちゃんとこれからおっきくしてあげるから」
「神威!そういうこと言わないで」
「大丈夫だって、絶対おっきくなるから」
「そういうんじゃないの!もう!」
なんだか変わらないやりとりがうれしくなった神威は花梨を抱きしめた。
リップ音が鳴る小さなキスをして頬を合わせる。
ーーー「ねえ、もう花梨は自由だと思う?」神威はそう聞くと花梨は頷く。
「残念、それは違うんだよ」
ニコニコとした顔でふしぎそうな顔をする花梨に言う
「どう言うこと?」
「今度は俺が捉えてはなさないからだよ、結構束縛きついよ?覚悟してて」
「え???そうなの??」
「そうだよ、大事な宝物は手放さないから、その代わり花梨も同じでいいんだ俺を絶対に手放さないでよ」
ーーーそれは愛情という束縛で花梨の心を満たし幸せにするもの。
「わかった、でも神威ならいいよ。ずっとそばにいて離さないで」
「花梨・・・・一緒に行こう」
ーーーーこの日、花梨は大きな鳥籠から羽を広げて飛び立った