5億の女
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「花梨はどうしてる?」
船に戻り高杉は神威にそう聞いた。
「阿伏兎にしがみ付いてる、まだ落ち着かないみたいだ」
阿伏兎は食事もできず、トイレも我慢してしがみ付く花梨の背中をさすり続けていた。
高杉はこんな花梨は見るのは初めてで蓮水という男が木蓮にいる間どれだけ支えていたかを感じざるを得なかった。
「おいおい。なにをやってるんだ」
そばに来て花梨の顔を持ち自分に向かせた。
「なんて顔してやがる、しっかりしろ、あいつが守ったのはこんなシケた顔の女か?」
「シンスケ、今そんなこと言っても」
止める神威に高杉は容赦なかった。
「あいつは、お前の願いを叶えようとしたんだ。それだけお前が大事だったんだよ。
ちゃんと知れ、あいつがなにを思い何を願ったか」
そう言って神威が後ろ手に隠していた遺書を取り上げた
「シンスケ、今は無理だ」神威が止めるも
「甘い」そう言って花梨にそれを手渡した。
「蓮水の遺書だ。つい二ヶ月ほど前のものだ、
あいつは半年に一回遺書を書いて預けてたらしい
読んでやるのが筋だろ?」
阿伏兎の腕の中で顔を上げた花梨は高杉を見た。そして神威を不安げに見る・・神威は黙って頷いた。
それを受け取り、震える手で封を切った。
”花梨さま
あなたがこれを読まれているということは、すでに私は死んでいるということでしょう。
私はこの遺書を書く二日前、命令を受けました。
軍統合本部長からの勅命です。
龍翔提督に連絡を取り、全てを報告しました。
龍翔提督以下統合本部に関わりなく動く提督たちはあなたの味方です
きっと今はご無事でいらっしゃるはずです。
木蓮は恐らくクーデターが起こり、これからは龍翔提督が閣下になられ木蓮を統率なさることでしょう
あの日、私は提督と約束をしました。
入隊し、あなたの部下として配属になる時にあなたを身を挺して守ることを。
あなたを監視報告するという仕事もありました。
しかし一番はあなたを守るということが一番でした。
私の思い出話をしましょう
私が初めて花梨という人を知ったのは高校生3年の時でした。
5年スキップで17歳という年齢で大学まで卒業した貴女は大学入試のパンフレットの表紙になっていました。
私は一目惚れでした。
憧れの貴女に会いたくてどうすればいいか
必死に考えたことを覚えています
パンフレットの切り抜きを部屋に貼り話しかけるような普通の学生がどうしたらいいか考えました。
何がなんでも軍に入ることが先決だと思いました、
貴女のように優秀でない私は必死で1年スキップして大学を卒業し
貴女を追うように軍に入りました。
最初の面接で貴女の下で働きたくて試験を受けたと言った時の面接責任者をしていたのが龍翔提督でした。
私は願った通り貴女の部下になれましたが。
しかし、配属された日にすぐ私の想像とはまるで違う姿に驚愕したのを覚えています
だらしなくていい加減な私生活、何度言ってもベッドで寝ないで寝袋で寝てしまう。
寝袋でご飯を食べてしまう、ボリボリあちこち掻きながらシャワーを浴びに行く
小言を言ってもはいは〜いでおしまいで
私が描いていたあなたとは真逆でした
でもそんな貴女を見るたびに信用されていると嬉しくなりました。
私生活まで全部を見せてくれていましたから。
研究に関しては寝食を忘れるほど集中する貴女が心配でした
初めての長期休暇で初めて外宇宙へ出た時行方不明になり大騒ぎになった時のことを覚えていらっしゃいますか?
貴女のことだから動揺もせず、平然としていらっしゃるのだろうと想像は尽きましたが周りは大騒ぎでした
しかし本部が心配していたのは貴女ではなく貴女の研究データの流出でした
その頭脳にほとんどのものが入った状態で外部に漏れれば木蓮軍の不利になり得る可能性があるからでした。
幸いお戻りになりことなきを得た代償はさらなる貴女の行動規制でした。
私は貴女の行動を逐一報告することを命じられました
生活全てにおいておそばにいなければならず、ご不自由な思いをさせたと思います
でも貴女はそれが仕事だからと笑って許してくれました。
そして龍翔提督の提案で宇宙へでた時私は貴女の変化を見ました。
貴女は春雨第七師団の神威殿と楽しそうにお話をなさっていました
木蓮では誰一人友人を作らず、一人研究室に閉じこもっておられた貴女が
宇宙ではこんなふうに人と接するのだと初めて知りました。
神威殿と離れたあと、宇宙を見つめておいでの貴女は寂しそうに見えました。
貴女にとっては初めてできたご友人だったのでしょうか?
木蓮に戻られた時貴女はポツリとおっしゃいました
「私に自由に飛ぶ空はないね」とその時情けないことに貴女の思いをようやく知りました。
それでも貴女はいつもと変わりなく、私も貴女のおそばにいられました
そしてあの誘拐事件が発生し木蓮で貴女についていながらお守りできなかってことを悔やみ、情けなく思いました。
捕まっても貴女はきっと怯えたりはしないで堂々とされているとは思いましたが
統合本部が貴女を見捨てる決定を下すのでは?という危惧を抱えておりました。
幸いまた運よく助かり木蓮に戻られ、私を見舞ってくださったときは本当に嬉しかった。
守れなかった私が悪いのに何度も謝ってくださった。
私の手を握ってくださった貴女の手は本当に柔らかで温かった。
今でもその手の感触は残っております。
でも、戻られてから貴女は空を見る日が増えました。
まるで飛び立てない鳥のように空を見てため息をついて。
その合間に神威殿が何度か訪れるたび貴女の笑顔が増えました。
私はそのことですら全て報告をあげなくてはなりませんでした。
そして、今更春雨と協力関係にあるとはいえ貴女を特定人物と親しくさせてはならない、と命令も受けました。
私は疑問を持ち始めました。なぜそこまで貴女だけが縛りを受けねばならないのかと。
そして恐るべき計画を知りました
医療研究部が貴女の脳だけを取り出し保管そこから直接データを取る。
さらにその脳に刺激を与え人工知能とリンクさせさらなる開発を行うという計画を。
本部が欲しいのはその脳だけ、体はいらない感情はいらない。
あなたを1号としその後優秀な脳を持つ人間を軍に入れあなたと同じようにする
人を人と思わないような計画に私は疑問を抱きました。
木蓮は木蓮軍人はそんなことはしない、誇りある木蓮軍人は人体実験はしない
常に堂々と戦い勝利を得るために、誇り高い戦いをする
同胞を犠牲にして人体実験に使い勝機を得るなど木蓮の誇りに反する、私はそう考えました
そして、何よりも私は貴女に恋焦がれここに来た、だからそんなことは許せなかった。
貴女は貴女の中にあるデータを全て文書化するようにお願いしましたね。
それで防げる気がしましたが甘かった。
龍翔提督から春雨第七師団に連絡が間も無く入るはずです、
私は提督にお願い事をしております。
どうか、ご自分の人生はこんなものだと諦めないでください
誤魔化すために戯けないでください、そして、神威殿から逃げないでください。
見ているだけでわかってしまいました
友人だと思っていた神威殿はあなたの心の拠り所となり愛する人になっていたんですね
あなたは私にとって上司であり、大事な一人の女性でした。
18歳の私が恋焦がれたあなたは、今も変わりなく恋焦がれ、大事な女性です
だからこそ、いつ死んでもいいと思わないで、生きたいと願う日を送ってください、
あなたが本当に求めた人の手を握ったら離さないで生き抜いてください
いつか貴女が年老いた姿で私に会いに来てくださる日まで私は貴女の身を案じながら遠い世界で見守り待っております。
いつかまた、会える日まで、どうか幸せで強くあってください。
蓮水