5億の女
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翌朝。蓮水が花梨を迎えに来て、そのまま商船の修理に取りかかった。
阿伏兎も修理の合間に顔を出した。
「あ、阿伏兎〜」ゴーグルとヘルメットをとって手を振る花梨に「おう!」と手を振る
油で少し汚れた頬に気づかないまま駆け寄って来る姿に笑いが漏れる
「油、ついてっぞ」
指差されて首に巻いたタオルで拭き取るっている花梨にペットボトルの水の差し入れ。
この辺の細かさが団長と違うと自負しながら花梨に話しかける
「順調に進んでるのか?」
「うん。蓮水もいるし。スラスターが旧式だから調整が少し難しいけど、さし入れありがとね」
そう言っておいしそうに水を飲んだ。
「喉渇いてたのか?」
「うん、飲んでなかったから命の水よ」
阿伏兎の前にいる花梨は明るい花梨で仕事が好きな花梨だ
こいつは闇を人に晒すことはない・・どうしても生きたいと願う瞬間に抱えた闇を晒すんだろうな。
それを晒すのは誰の前でだろうか。
どうしてもという瞬間は訪れることはないかもしれない
「阿伏兎」
「なんだ?」
「久しぶりに会えて嬉しかったよ」
「やぶからぼうに何だ」
「ずっとあそこにいたからね、久々に外で人に会った感じだから。
神威や阿伏兎に会えるのは嬉しい。」
「拐ったのにか?」
「阿伏兎、それは内緒の話でバレたらやばいでしょ」
「最もだ、5億の女が生まれちまった事件だからな」
「これ修理終わったら今度いつ会えるのかな」
「俺か?団長か?」
「二人に決まってる、だって私の中では二人でワンセットだからね」
「嬉しいね、おじさん喜んじゃうぜ、そっちに行ってやるさ、用事作って」
「待ってるね。」
水平スラスターの修理が無事終わったのは深夜のことだった。
これで花梨の仕事は一旦終了となった。
その夜のうちに迎えに来た小型艇で花梨は蓮水と共に本艦に戻って行った。
小型艇の中で花梨は寂しい気持ちに気づいていた。
神威に阿伏兎は木蓮以外で知り合えた人たち、きっかけはあれだったけど気持ちを許してる部分はある。
蓮水は確かにそばにいて世話を焼くけど、あまり本音は言えない部分がある
ーーー内偵でいた時に学んだこと
同じ部署、軍人同士で仕事以外で親しくなるのは危険だと。
神威にはある程度のことは話もするけれど、彼の口からここまで話が届くこともないし彼自身もベラベラ喋ったりしない。
かえって今回も私のことを心配して一緒に行動してくれたほどで阿伏兎も気遣ってきてくれたに違いない。
そういう人たちがいてくれたことは私の中でありがたいこと。
会うことがなくなっても、会えないとしてもふっと笑みが漏れる。
あのまな板連呼ですら、何だか心がホッとする。
「悪かったな、修理させて」龍翔提督が小型艇で先に戻った花梨をわざわざ出迎えてくれた
春雨本部のことはすでに蓮水から連絡が入っていて提督は全て知っていた
まあ、報告してるだろうとは思っていたので驚きもしなかったけど、結局常に監視付きかと諦めに似た失望もあった。
神威から聞いたことは誰にも知られていないようだったから、これは黙っておいた方が賢いと判断した。
それでも宇宙に出て星を見ることは楽しかった。
第二艦橋から見える星は殊更に美しい、
ドーム型の天井が開くとそこには強化ガラス越しの満点の星の海。
ここで寝袋で寝たいと言ったら蓮見に怒られた。
そのさきに春雨の本部がある・・まだそこに神威たちはいる。
心の中に何か痛むのを感じた・・が、花梨はそれ以上考えるのをやめた。・・諦めたと言った方がいいかもしれない。
巡洋艦も帰還し商船も修理が終わり出航した後、再び春雨本部から旗艦戦艦は外宇宙へと出て行った。
航行中のデータ収集結果をもって木蓮に戻ったのは一月後のことだった。
研究所では蓮水がまた花梨の世話を焼いている
いつもの日常の中で花梨は気づき始めていた。ここでは片目を閉じて生きていかなくてはならないってことに。
それを気付かせたのは第七師団の中にいた数日と先日の神威と阿伏兎だと。
・・だからといって、何かを変えるわけでもなく変わらない日々を送るだけのこと。
大きな鳥籠の中にいるだけのこと。
自分が選んだのだから仕方ないと納得しながら数年先は自分には見えないなと感じていた。