大事なもの、欲しいもの
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故郷の駅に到着してホームに立つと
前は承子を連れてきたことを思い出した。
“全部自分が招いたことだ“ため息をつき顔をあげた・。
もう同じことは繰り返さない・・
終は改札を出て山へ向かった。
しおりが一人で暮らす、山へ。
しおりは一人登り窯に火を入れる準備をしていた。
薪もまだ十分ではないから、途中で薪割りもないとだめでため息が出る
父がいたときは二人だったからなんとかできたし
お弟子さんがいた時期もあったけど
弟子志願はいたけど、
私しかいないところに男性が来ても正直困ってしまうからお断りをした。
通いできて貰えばよかったかなと思いながらも後悔先に立たず。
今度は里の人に応援をお願いしようと思った。
作品を窯の中に入れ終わり、火入れの準備をしていると人の気配がした。
そこには懐かしい髪色とアフロヘアの終さんが所在情けに立っていた。
「終さん?どうしたんですか?」
“二週間休みになって、気がついたらここにきてた“
「どうしてここなんですか?
ご実家でいいじゃないですか?
それに婚約者の方は?」
終は思い出したようにしおりから祝いだともらった作品を手渡すと
一瞬顔を硬らせたしおりに慌ててスケッチブックに書き出した
“婚約破棄になってお祝いを受け取れない“
「あ・・それで二週間お休みなんですね」
“そうか、終さん婚約破棄で傷ついて。休みを取ったんだ・・
そんなに彼女が好きだったのに・・可哀想に“
そう頭の中で変換したしおりだった。
忙しそうに動いているしおりに“どうかした?”とスケッチブックに書き込むと
「登り窯に火を入れるから寝ずの番になるの、だから大変で」
終は“手伝うよ”と書いた
それは今のしおりには渡りに船、使えるものなんでも使う状態で
「お願いします」と終に頼んだ。
温度計を見ながら窯に薪を入れて60時間ほどかけ1300度近くまで温度を上げていく
だから気を抜けない。
説明を受けて終は一つ一つきちんと頭の中でシュミレーション。
投薪を使い分け、焼成段階に分けて微妙に温度調整して1300度まで丸一日かかって温度を上げていく
しおりと交代でその作業を行なった。
会話なんてほとんどない。合間に細かな休憩を交代でとった。
火に照らされるしおりの顔は真剣で神々しいとさえ思えた。
まるで知らない世界がそこにあって
彼女がこの山奥でずっと父を師匠とし陶芸を学び
今一人で続けていることに尊敬すら覚えた。
みんなが言うおしゃれもしないゲジ眉でひっつめがみでもかっこいいと思った
「ご飯食べましょう」そう言って火の前で二人、おにぎりを食べた。
「麓の農家からもらったお米、美味しいんですよ」って笑う彼女を見て
終も笑う
ここは質素で江戸の暮らしからは考えられない、でも終はなぜかほっとしていた。
何を話すわけでもない無口な終に集中しているしおり。
結局必要な言葉以外何も話さない時間を過ごしていた。