大事なもの、欲しいもの
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城に近づくにつれてなんか体が強張っていくのをしおりは感じていた
山奥で人にあまり拘らず生きていた時間が多いしおりは城の中の人間の多さに飲まれそうになる
門から入るにしてもあまりに人が多い
「つまづくんじゃねえぞ」
沖田がそう言ってくれなきゃ石段で転けそうになる
それでもなんか歩き方がおかしくなる
沖田はしおりを一旦止めた
「山猿、息吸って吐け、背筋のばせ」
言われた通りにする。
「よ〜し。笑え」
そう言って口元を横に引っ張った。
「い。痛いです」
「痛いのはわかるな、じゃ、大丈夫だ。行くぞ」
沖田の背中を見て・・肩の力が少し抜けた気がしてしおりはほっとした。
後ろには山崎がいて「緊張しないで大丈夫ですよ〜」という。
しおりは大広間で将軍から祝いの言葉をもらい、
将軍家お抱えの陶芸家として正式に認めるという書状を受け取った。
“あ。家のタンスに丸めて放り込んであったやつと同じだ“と
しおりは思った
父は無造作に丸めてタンスの一番下の引き出しに放り込んでたっけ・・・
父は本当に興味がなかったんだなと、ふっと笑みが漏れた
大広間を後にした時後ろから声が聞こえた
「あの〜」
振り向くと可愛い人がいた
「姫。」と呼ばれる人はそよ姫だった。
「私あなたにお会いしたくて、女性で陶芸家って聞いて。
お兄様が素晴らしい作品を作るって言ってらしたので
どんな方なのか知りたかったんです
まさかこんなお若い方なんて」
「あの」
「私にも教えてくださいませんか?せめてこちらにいらっしゃる間だけいいんです」
「姫様、わがままはいけません」
「爺、やってみたいの」
ーー江戸に滞在する一週間の間、しおりはソヨ姫の相手をすることになった
そのまま城に宿泊をと言われたが
絶対に1日で倒れるという自信があったので正吉のところから通うことにした
そよの使いが毎日正吉のところへ迎えにきて
城に向かうというのを約一週間
そよはしおりと陶芸だけではなく、武州の話を聞いたり、
山奥での暮らしを聞いて驚いたり笑ったりしていた。
明日武州に帰るという日、
そよ姫は「また絶対教えにきてください、先生。私練習しておきます」と言った。
屯所ではそんなしおりの話で持ちきりになっていた
ここで働いていた女中がそんなに有名で高名になるなんて想像していなかったからだ。
俯いてそれを静かに聞いていた終は小さな誰にも聞こえないようなこえで
“・・よかった・・”と呟いた。
悲しんでいないか。苦しんでいないか。辛くないか。そんなことばかり考えていた。
警護についた沖田が
「終兄さん、・・・・山猿、ほんとに綺麗でしたぜぃ」
そう言った時も心の中ではその姿を見たいと思った
でも、・・もうできない・苦しませすぎたから。
全部の言葉を飲み込んで今は・・思うしかできない。
誰にも言わないままで心で何度もしおりを描いてる・・それでいい。
この屯所の中に思い出が多すぎるから辛さは仕方ない。
でもしおりだって・・傷ついたんだ、・・・・傷つけたんだ。
終はますます喋らない日が増えて行った。
下痢は果てしなく続いて終は厠とますます友達になった。
そしてしおりはまた山奥へ帰っていった。