大事なもの、欲しいもの
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しおりは正吉窯を訪ねていた
あの日、江戸を出てから一度も手紙も出さずにいたけれど、
江戸まで来た以上はきちんと挨拶に行こうと思っていた。
引き戸を開けるしおりを正吉が驚いた顔で見た。
「よく来たな」
短い言葉の中にいろんな意味が含まれていることをしおりはわかっていた。
「将軍奨励賞と優秀賞w受賞したんだな。
おめでとう・・本当にがんばったな。
ここで茶碗作ってたのが嘘みてえだ。
だけどそのゲジ眉なんとかしろ。
いっときマシになったが逆戻りじゃねえか、
困ったやつだな、おめえは」
笑って言って隣のおばさんを呼びに行くと
「ま〜久しぶりだね。受賞おめでとう、ってか
またゲジ眉だ、いつ見ても立派だねえ」
そう言っておばさんはすぐにしおりの髪をとき綺麗に結い直して
眉を淡々に整えた
「ゲジ眉はやめな、かわいんだからさ」そう言って笑った。
「そういやなんで江戸に?」
「受賞の話で、将軍様に御目通り・・で」というと二人が慌て出して
顔を見合わせて言う
「お城に行くのにその格好はないよ!!」
「髪だって、くくっただけじゃないか」
大慌てして正吉は一番奥の箪笥から桐の箱を引っ張り出した
「ここにあいつの一張羅がある!」
そこには立派な帯に絹の着物があった。
「こいつは、嫁に来たときに着てきたんだ。
花嫁衣装こそ着せてやれなかったが
これだけはってあいつの母親が準備して・・嫁にきた。
娘ができたら着せてやるって言ってたんだけどよ、
娘どころか子供産む前に死んじまったからなあ、
しおり着てやってくれや」
しおりにとって生まれて初めて見るような、美しい着物だった。
「見覚えがあるよ、あんたの嫁さん、
これ着て嫁入りした時ほんと綺麗だったねぇ
あんたにももったいないってみんなで言ったもんだよ」
おばさんがそういと
「ああ〜何言ってやんだ。嫁は俺に惚れ切ってたんだよ」
正吉はその顔を綻ばせて笑った。
髪もちゃんとしなきゃだめだよって言うか、ここから行きな。ちゃんとしてやるから。
そう言われて明後日の登城前にここへ寄ることになった。
真選組がその警護を受け持つことになったのは急だった。
屯所内はバタバタしていた。
終はしおりが賞をとったこと、登城することを聞いて
“ああ、ちゃんと彼女は自分で自分の道を邁進しているんだ。
すごい人だ“と思った。
思い出すのは一緒にロクロを回した日々ではあったけれど
もう遠いところまで彼女は上り詰めたんだとさえ思った
誰を警護につけるかで悩んだ近藤だったが沖田をつけることに決めた
ここにいた時も沖田はしおりを山猿と親しみを込めて呼んでいた記憶が残っていたからだ。それと山崎。
しおりは正吉窯で支度を整えてもらった。
幕府が用意した宿泊施設は落ち着かないと言い、結局ここで過ごし
当日は眉をきっちり整え、髪もきちんと結い、着物に袖を通した。
「なんかここにあの人が嫁にきたときのこと思い出すよ。」
そう言って身支度を整えたしおりを見て言うおばさんの隣で
正吉も嬉しそうにその姿を見ていた
やがて沖田が迎えにきて.しおりの姿を見た。
一瞬、言葉を発しなかったが
「山猿が人間になった・・」そう言った
「沖田さん、ちょっとは褒めてもらえませんか?初めてなんですよ
こんな素敵な着物、」
「・・じゃあ、思いっきり褒めてやる、馬子にも衣装だな」
「それ褒め言葉ですか?」
「最大級の褒め言葉に決まってるだろぃ」
「もういいです。山猿と芋侍で。」
沖田は変わらない彼女を見て笑う。どんなに綺麗な格好してもしおりはしおりなんだ。
「なんか。仲良いですよね、」山崎は二人を見て言った。
「武州の山猿と芋侍なんだ仲良いに決まってるだろぃ、
山猿、今日は俺たちが警護につくから車に乗れよ」
「お願いします」
そう言ってしおりは正吉たちに見送られて城へ向かった。