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しおりは戻って二週間
突然父が亡くなった。
長く持たないと言われていたが
こんなに早いとも思っていなかったしおりは
バタバタするばかりで里の人の手を借りて葬式を出した。
ーーー本当に一人になってしまった。
誰もいない山奥で初めて寂しいと思った。
この時ほど終が恋しいと思ったことはなかった
布団をかぶっても何をしても寂しい。
しおりは布団の上で膝を抱えて自分を抱きしめた。
誰も抱きしめてくれないのなら自分で自分を抱きしめて慰めるしかないんだからと。
改めて思った
終を抱きしめていた腕は自分を抱きしめるだけのものになってしまったと。
ーー季節は夏手前。
終は流れに身を任せているような日々を過ごしていた
そしていよいよ終は承子を連れて武州に挨拶へ行くことになった
これで正式に婚約が整うことになる
だが終はいまだに承子に指一本触れようとしなかった。
承子はそれが不安で松平の妻に相談し、
それが松平に伝わり近藤へと伝わった
「終は奥手ですから」という近藤に
「女が不安に思うほと手ェださねぇってのも問題だぜ?
なんとかしろぃ」
・・それが武州へ行く発端にもなった
ちゃんと婚約すれば終も手を出すだろう
それに二人で外泊で同室にでもなれば変わるだろう
そういうこともあった。
沖田だけが、そんな簡単に手は出しませんぜ・・と呟いていた。
駅で列車に乗り込む二人を見送りにきた松平は二人に
「ここいらで既成事実でも作って子供こさえとけ」と言った
笑う近藤と土方を他所目に沖田だけが笑っていなかった
終と承子は武州の故郷の駅に降り立った。
両親が笑顔で出迎えて承子は挨拶をした。
両親と承子が話の花を咲かせる中、終は農作業をする一人の人に目が釘付けになった。
そこに農家を手伝うしおりがいた。
江戸にいた頃の面影は消えかかっていて
ゲジ眉で陽に焼けて真っ黒で・・擦り切れた着物で。。。
顔は泥だらけで。。でも笑っていた。
彼女はここにいた方が幸せなのではないか?そう思って見つめた。
・・またお腹が痛くなってきた・・・
「終さん」
呼ばれて承子さんを見た。
もう遅い
この人と結婚する
諦めとも言える思いを固めつつあった・・。
実家では親戚も集まって大歓迎だった。
こんなに喜んでくれるなら
そう思いながらも・・お腹は痛くなるばかりで厠に急いだ
実家で婚約が決定し、結納の日取りを仕事の都合を見ながら決定することになった
住まいも決めてと次々話が決まっていった。
その噂は翌日しおりの耳にも届いた
「斉藤さんとこの息子さんが婚約者を連れてきた、もう日取りを決めているようだ」と
夜、終が作った湯飲みを手にとって眺めていた
これをくれた日、終は好きだと言ってくれた、付き合ってほしいと言ってくれた
ずっと・・続くと信じていた。
・・・でももう一人だ。本当に一人だ。
もう父もいない、誰もいない。一人の山奥で声を上げて枯れるまで泣いた。
涙なんて枯れたと思っていたのに・・あの日と同じようにしゃくり上げて泣き続けた。