大事なもの、欲しいもの
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「そこに座ってくださいね」
そう言われてロクロ前の椅子に座る
向かいにしおりが座り手を濡らすように言うと素直に終は言うと手を濡らした
「じゃあ、始めますよ」
親指で真ん中に穴を開けますよ」
そう言って終の手を取り
芯出しをした土の中に親指を埋める
重なる手に終は一瞬しおりの顔を見た
でも彼女は気づかない。
土を前にすると職人の顔になる。
視線を落とし、彼女の言う通りに成形していく
補助で何度も手が重なる。
土は徐々に形を変え、湯飲みへを形を変えていく
それは終にとって新しい刺激だった。
しおりの前には目をキラキラさせた終がいた
「ほら、一個できたでしょう?」
そう言ったしおりにもう一個作りたいと言った。
同じ工程で湯呑みが二個
削り、乾燥、素焼き、本焼きと工程を重ねるのを
休みの度に終はしおりと一緒に行った
釉薬の色は終が選びしおりが仕上げて行った
完成した湯呑みは少し歪だけど味のある湯呑みに仕上がった
“これで二人でお茶を飲みたい“スケッチブックにそう書いた。
しおりもその言葉が嬉しくて「楽しみにしてます」と言った・
それからお茶の時間は終が作った湯飲みにお茶を入れ
しおりが作ったさらにお菓子を置いて週に4回は必ず一緒に縁側でひと時を過ごした。
使った後湯飲みはきれいに洗って床の間の片隅に置かれていた。
後日、それを発見した沖田は湯飲みをじぃぃぃ~~っと見た。
「これ、どうしたんですかぃ?」
“しおりさんに教えてもらって作ったんですよ“
スケッチブックに書いて見せた
「へ〜器用にできるもんだ」
“総吾くんも、やってみるといい“
後日、
総悟が正吉窯でしおりにつきっきりで教えてもらうが
想像以上に不器用で何度もやり直し
芸術的な湯飲みは出来上がったのは
誰にも内緒の話である。
来週は大雨だと言う天気予報を聞き、
しおりは屯所の雨戸修理を始めた
大工か建具屋に頼みたいのだが、どこも忙しく間に合わない
。。しかし自給自足、家は父の自作、
修理は親子でやっていたしおりには雨戸修理なんて、お手の物
何十枚と言う雨戸を直し、
さらに屋根の修理も始めると流石に終は心配になり様子を見に来た
“屋根修理までやるの?危ない“
スケッチブックに終は書いて見せた
「こう言うのは私の仕事ですから、他の女中さんでは無理です」
そう言ってしおりは笑った。
終は心配していた。
いつも力仕事して掃除して自分の世話係
頑張りすぎだ・・そんなことを思う終だった
その夜は隊士たちの飲み会が屯所で開かれた
しおりは通いのため夜はすでに帰宅していたが
住み込みの女中たちはお酒を運んだりしていた。
酔っぱらった隊士たちはどの女中が美人だの可愛いのと
みんなで盛り上がっていた
「あの山猿は?」
誰かが言った
事情を知っている隊士たちはあれじゃ婚約者も逃げる、
今はちょっとマシになったが山猿だ
屋根は修理に雨戸修理、可愛げもない
そんなふうに言い出した
誰かが
「でもあいつは人が嫌がる仕事も、力仕事も淡々と一人でやるよな」
と言うが
頷いたのは沖田たちだけだった。
終はその言葉を聞きながらしおりを思い浮かべていた
あの人は綺麗だ・
そう呟いた言葉は誰も耳にすることはなかった。
終はあの日以来時々正吉窯に顔を出し、
正吉に手ほどきを受け湯飲み作りに没頭していた。
なぜか終は湯飲みしか作らない
正吉が他のも作ったらどうだ?と言うと
「ちゃんと一つを極めたら」と返した
そして・・3ヶ月後、全て自分一人で作り上げた湯飲み
丸い形の優しい緋色の湯飲み
満足そうに終はそれを見て笑った。
「出来たじゃねえか」正吉にそう言われて
”先生のおかげです“そうスケッチブックに書いて頭を下げた。
しおりには内緒にと言う約束を彼は守っていた。
それを大切に屯所へ持って帰った。