向かいに新しい住人がやって来た。
40代の夫婦らしい…と、斜向（はすむ）かいに住む奥様と近所のスーパーで立ち話になった際、話題になった。
うちに引っ越しの挨拶に来たのは旦那さん一人だった。
最初は高身長の圧にびっくりしたが、奥様の情報通り、働き盛りの好青年といった感じの方だった。
優しそうな笑顔で丁寧に挨拶してくれて安心した。
ちゃんとゴミの分別してくれそう。


数日経ち、ふと疑問が湧いてきた。
ここ何度か外出する際にすれ違ったり、ゴミの日に顔を合わせたりしたが、見掛けるのは旦那さんと謎の男性だけ。
二階建てで広めの庭から察するに大家族なのかと思っていたけど、奥様や子供の気配は一向にしない。

『親子…ではないわよね…ご兄弟？』
洗濯物を干していると、今日も向かいの庭で何やら楽しげな声が聞こえる。
お向かいさんの庭に出来たバスケットゴール。
騒音にならないよう配慮する旨をわざわざ菓子折りを持って伝えに来た。
ボールが弾かれる音と一瞬静かになった後に微かに聞こえるリングに触れる音。
不思議と不快な感じは無かった。
何より、謎の男性がボールを放つ時はすごく目を引いた。
二人の遊ぶ様子は微笑ましくもあった。
どこか懐かしいような…
そう…学生時代の部活みたいだーー

無意識に凝視していたのか、旦那さんと目が合った。
旦那さんは恐縮して会釈を返す。
本当に、礼儀正しくて気持ちの良いご家族のはずなのに、何かがモヤモヤする…
詮索は良くないと思いつつ、つい気になってしまう。


翌朝、可燃ゴミの日。
収集場所で斜向かいの奥様に会った。
また何か情報を得ていないかしら、と話題をふってみた。
「引っ越しの時のご挨拶ってどなたでした？」
「旦那さんお一人だったわ」
どうやら奥様も旦那さん以外のご家族を見掛けていないらしい…
「背の高いご主人で…」
「そうそう！圧倒されて怖かったわ」
「でも眼鏡が優しそうな…」
「堅気じゃない雰囲気の…」
「え？」
「あら？」
どうも奥様と話が噛み合わない。
「木暮さんっておっしゃってたわ…」
「あそこ、三井さんちじゃなくて…？」
奥様と表札を確認しに行く。
確かに、二つの名前が併記してある。
「………二世帯かしら…？」
奥様と顔を見合わせる。

これは２時間サスペンスで鍛えた脳をフル回転する時が来たかもしれない。
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「今日も見てる」
「あ？」
「向かいの奥さん…うるさかったかなぁ」
「極力音抑えてんだけどな…」
「今度何か買ってお詫びに行こうかな…」
「具体的に文句言われるまでいいだろ」
「…うーん…でも…ご近所さんとは円滑でいたいし…」
「……まあ…只でさえ後ろ指指されるような間柄だけどよ…」
「あ！…まだ日も高いんだよ、くっつくなよ」
「日が暮れたらくっついていいってコトか」
「……またそういう…発言がオジサンになってきたぞ、三井」