三暮のある風景
3日間に渡って行われる文化祭。
俺達軽音部にとって、大勢の前でパフォーマンスが出来る絶好の機会だ。
しかも今年は、ベースのTaka.が彼女とその友達を招待してるらしい。
お嬢様学校で有名な女子校の子達だ。
これは俄然やる気が出てくる。
だが、本番一週間前になったところで、由々しき事態が発生した。
バンドの要でもあるボーカルーーつまり、俺が風邪を引いた。
幸い高熱は無いのでギターは出来るが、鼻づまりと喉の痛みだけは一向に治まらなかった。
鼻水とガラガラ声のロックほどカッコ悪いものはないだろう。
そこで白羽の矢を立てたのが、3組の三井だった。
三井の歌唱力を知ったのは去年の夏。
カラオケに行った際、隣の部屋から聞こえてきた歌声が気になったのが切っ掛けだった。
偶然退室時間がバッティングし、歌声の主が三井だと判明する。
鬱屈した感情が魂に訴え掛けるシャウトは、中々のパンク•ロック向きだと思った。
「頼む!三井」
「ヤだよ。めんどくせぇ」
「当日に1、2曲歌うくらいでいいからさ」
「ぜってーヤだ」
目の前でふんぞり返る男に、どうやって首を縦に振らせようか思案する。
「よし、お前がステージに立ちたくなる伝説教えてやる」
文化祭実行委員が作った、体育館ステージのタイムスケジュール表を机の上に広げる。
最終日の大トリ枠を指差しながら、軽音部内で真しなやかに語り継がれてる伝説を語った。
それは、文化祭最終日、体育館ステージの大トリでボーカルを務めると必ず恋愛成就するというものだ。
直球にステージ上で告白したOBも入れば、学園一のマドンナがステージを見て好きになり、結婚にまで至ったOBもいる。
大トリ枠を取れなかった年の先輩達からは、浮いた話を聞かない。
最終日のラストステージは衆目を集め易く、印象に残る事が多いので、必然的に確率が高くなると言われてしまえばそれまでだが、この伝説を聞いてから、モテ目的で入部した奴もいた。
正直これで三井が心変わりするかは微妙だったが、何かを考える仕草をした後、「1曲だけな」と意外とあっさり返事をした。
文化祭最終日、ステージは大いに盛り上がった。
三井はあんなに出演を渋ったくせに、聴衆を煽るパフォーマンスまでしやがる調子の良さ。
初めて聞いた歌声は、世の中全てを憎むような、悲鳴に近い感情があった。
今はただ、誰か一人に想いをぶつけてる。
何だよお前、一丁前に好きなコ居たのかよ…
助っ人の謝礼代わりだ。
軽音部の伝説がまた一つ更新されるよう、ギターソロでお膳立てしてやった。
•
•
•
「どうだった?オレのステージ」
「かっこ良かったぞ!三井は歌も上手いんだなぁ」
「……それだけ?」
「ん?」
「渾身の愛の告白したんだけど」
「誰が?」
「オレが」
「誰に?」
「お前に」
「えっ?!いつ?」
「……あの歌詞で察しろよ」
俺達軽音部にとって、大勢の前でパフォーマンスが出来る絶好の機会だ。
しかも今年は、ベースのTaka.が彼女とその友達を招待してるらしい。
お嬢様学校で有名な女子校の子達だ。
これは俄然やる気が出てくる。
だが、本番一週間前になったところで、由々しき事態が発生した。
バンドの要でもあるボーカルーーつまり、俺が風邪を引いた。
幸い高熱は無いのでギターは出来るが、鼻づまりと喉の痛みだけは一向に治まらなかった。
鼻水とガラガラ声のロックほどカッコ悪いものはないだろう。
そこで白羽の矢を立てたのが、3組の三井だった。
三井の歌唱力を知ったのは去年の夏。
カラオケに行った際、隣の部屋から聞こえてきた歌声が気になったのが切っ掛けだった。
偶然退室時間がバッティングし、歌声の主が三井だと判明する。
鬱屈した感情が魂に訴え掛けるシャウトは、中々のパンク•ロック向きだと思った。
「頼む!三井」
「ヤだよ。めんどくせぇ」
「当日に1、2曲歌うくらいでいいからさ」
「ぜってーヤだ」
目の前でふんぞり返る男に、どうやって首を縦に振らせようか思案する。
「よし、お前がステージに立ちたくなる伝説教えてやる」
文化祭実行委員が作った、体育館ステージのタイムスケジュール表を机の上に広げる。
最終日の大トリ枠を指差しながら、軽音部内で真しなやかに語り継がれてる伝説を語った。
それは、文化祭最終日、体育館ステージの大トリでボーカルを務めると必ず恋愛成就するというものだ。
直球にステージ上で告白したOBも入れば、学園一のマドンナがステージを見て好きになり、結婚にまで至ったOBもいる。
大トリ枠を取れなかった年の先輩達からは、浮いた話を聞かない。
最終日のラストステージは衆目を集め易く、印象に残る事が多いので、必然的に確率が高くなると言われてしまえばそれまでだが、この伝説を聞いてから、モテ目的で入部した奴もいた。
正直これで三井が心変わりするかは微妙だったが、何かを考える仕草をした後、「1曲だけな」と意外とあっさり返事をした。
文化祭最終日、ステージは大いに盛り上がった。
三井はあんなに出演を渋ったくせに、聴衆を煽るパフォーマンスまでしやがる調子の良さ。
初めて聞いた歌声は、世の中全てを憎むような、悲鳴に近い感情があった。
今はただ、誰か一人に想いをぶつけてる。
何だよお前、一丁前に好きなコ居たのかよ…
助っ人の謝礼代わりだ。
軽音部の伝説がまた一つ更新されるよう、ギターソロでお膳立てしてやった。
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「どうだった?オレのステージ」
「かっこ良かったぞ!三井は歌も上手いんだなぁ」
「……それだけ?」
「ん?」
「渾身の愛の告白したんだけど」
「誰が?」
「オレが」
「誰に?」
「お前に」
「えっ?!いつ?」
「……あの歌詞で察しろよ」