三暮のある風景

地元の診療所から大きな病院に赴任して半年。
外来、入院、常に患者の出入りがあり、慌ただしい日々を過ごす。

ナースステーションでカルテの整理をしていると、先輩が私の背後から声を上げた。
「あら、三井君。また入院?」
私が担当する事になった4人部屋の内の一人だ。
よく見ると、入院歴が有った。
この辺は不良同士の喧嘩で運びこまれる子も多いと聞く。
三井君も、急患で入った時は意識が朦朧としていたらしい。
「前に担当された事あるんですか?」
「まあね。無断で病室抜け出したり、随分手を焼いたわ~」
手を焼くという言葉に、反抗的な態度をとられたらどうしよう…と、少し身構えてしまう。
「でも、アイドルみたいな可愛い顔で巡回の時間がちょっと楽しみだった」
「……そう…です、か…」
三井君はどちらかと言うと恐い印象で、先輩の言う“可愛い”からほど遠い気がした。
「30分後に巡回なんですよ。先輩、代わります?」
冗談めかして笑った。

「三井君、具合どう?」
点滴と体調の確認のため声を掛ける。
顔色を見ようと覗き込んだら、急に手首を掴まれた。
「三井君?」
「まだ見舞いに来てくれんのかよ…こんな……オレの………」
語尾が消え、同時に、掴んでいた手の力も弛みダラリと落ちた。
瞼は閉じられたまま。
夢の中で誰かと混同したみたいだった。
大きな寝言だと思ったら、微笑ましくなった。
布団からはみ出た腕をそっと元に戻した。

三井君が退院して暫く経った頃、再び赴任先が変わる。今は北村総合病院で働いている。
どこかの高校の生徒が、先生のお見舞いに来ていた。
何かの試合でもあったのか、ジャージ姿のまま喜びと興奮の声が廊下にまで響いていた。
ポ
ポ
ポ
「どうかした?」
「あの看護婦さん、どっかで見た気がして」
「……ふーん…」
「妬くなよ」
「妬いてないよ」
「何だよ。妬けよ」
「妬くなって言ったり…どっちなんだ」
「眼鏡のナースってイイよな」
「………」
「妬いた?」
「……ちょっとね…」
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