三暮のある風景

音楽室の窓から屋上が見える。
ワタシが定位置で座る席は特に、フェンス近くに居る人物の行動を逐一知ることが出来た。

入部したてで遅れを取るまいと必死になっていたワタシは、昼休み中の音楽室の使用許可を貰い、自主練に勤しんでいた。
ふと譜面台から視線を外した時、同じ時間に屋上に来ている男子生徒に気付いた。
『そういえば昨日も居たな…』
何年生かはわからないけれど、いつも独りで空を見上げ、時折何かを放るように腕を伸ばす仕草をしていた。
夏休みを過ぎたら彼の姿を見なくなった。

二年になり、1stパートを任される機会も増えた。1stはソロもある。自主練の回数も増えた。
屋上は不良グループの溜まり場になっていた。喧嘩してるような揉み合いを見ることもあった。
先生に言った方がいいのだろうか…
でも、ここから見ていた事がバレたら、昼休みの練習が出来なくなるかもしれない。
罪悪感で胸がチクチクしながら、ひたすら譜面から目を離さぬよう意識した。

そして三年。部活に熱中してると、月日が経つのを早く感じる。
高校最後の夏。今年のコンクールは金賞狙えるかもしれない。練習にも熱が入る。
いつもの昼休み。いつもの定位置。
いつもの屋上。
不良グループが居なくなり、代わりのように男子生徒二人が屋上の常連になった。
一緒にお弁当でも食べているのだろうか…こちらに背を向けているので表情まではわからないけれど、仲良さげな様子を感じた。

徐に一人の生徒が両腕を空に掲げた。
『あ…』
一年の頃に見た、いつかの光景。
何かを放るような、真っ直ぐ伸びる腕。
時々、一年の二学期以降姿を見なくなった彼はどうしただろうかと思っていた。

『友達出来たんだ…』

その時出た音は、柔らかい優しい音色だった。



「手首はこうだよ。んで、腕はこんぐらいの角度」
「こう?」
「お、それ」
「このフォームなぁ…練習してるんだけど入らないんだよなぁ…」
「お前手首細ぇからな、ボールに持ってかれンだろ」
「あー…そうかも。リストバンドでちょっと固定してる」
「じゃあ、こう打った方が良いかもな」
「こうか?」
「んー…もうちょっと…こう…」
「あ!予鈴鳴っちゃった…また放課後の部活で見てくれるか?」
「ああ」
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