『お、流れ星……』

土手の上で一人、仁王は夜風に当たっていた。

「雅治、早く寝所に戻らないと三船コーチに目を付けられるぞ」
そこへ、背後から柳が声を掛ける。
「なんか眠れんくての…」
仁王は空を仰ぎ見て、誰に聞かせるでもなく口を開いた。
「ここに来て、つくづく俺が負けて良かったと思って」
「どういう意味だ？」
「ヒロじゃこの生活耐えられんじゃろ」
「…まあ…失神ものだろうな。しかし、あいつもあれでいて頑固なところがあるし、意外と頑張るんじゃないか」
「だからじゃよ」
仁王は苦笑した。
「無理はしてほしくない、ということか？…難儀だな」
仁王の想いを察した柳は、溜め息を吐きながらも、言葉はどこか穏やかだった。

「あ、また流れ星！」
仁王が徐に立ち上がる。

「この合宿に耐えたらヒロが頭撫でてくれる！」

「この合宿に耐えたらヒロの膝枕で疲れを癒す！」

「この合宿に耐えたらヒロからご褒美のチューが貰える！」

仁王は流れ星が流れる瞬間を計って、早口でまくし立てた。

「…見事に煩悩だらけな願い事だな…」
「こんな事思っとらんとモチベーション上がらん」
「………なるほど。それも一理あるか…」
「なんじゃ、参謀も下心あるんか」
「さあな。…さ、戻るぞ」
柳が仁王の肩を軽く叩いて移動を促す。

仁王はもう一度空を仰いだ。


お星様、今宵もあの子が良い夢を見てますように