忙しい両親に代わって、年末の買い出しに妹を連れて駅前のデパートにやって来た。
ついこの間まで、クリスマスのイルミネーションに彩られていたのに、今度は門松やら一気に和風一色になった。
この日本人の独特の風習は、ある意味感心に値する。


「よぉ、ヒロ。偶然だなぁ」
信号待ちでぼんやりしている所に、背後から声がかかった。
「…仁王君…」
この地域から仁王君の家はうちより遠いので、本当に凄い偶然だ。
「仁王君も買い物ですか？」
「ん、まぁ…そんなトコ」
「におー」
最近言葉を覚え始めた妹の撫子（なでしこ）は、仁王君に抱っこをせがんだ。
仁王君がうちにちょくちょく遊びに来るようになって、妹も仁王君に随分懐くようになった。
「おー、なっちん。相変わらず可愛えぇのぅ」
妹の小さな手を握り、仁王君は妹の頬に軽く口付けた。
「…妹にまで愛想振り撒かないで下さいよ」
「‘まで’ってなんだよ…。なっちんのお兄ちゃんは可愛くないでちゅね～」
握ったままの妹の手を私に向けて振った。
「仁王君っっ！！」
仲が良いのはいいのですが、あまり悪い影響を与えて欲しくないのが本音。
齢15にして娘を持つ父親の気持ちがわかってしまった瞬間…切ない。

「ところで…仁王君は何を買うんですか？」
デパートへ到着したが、仁王君は何故か私達と一緒に行動を共にしている。
「ん？…あー…色々と…」
「？」
仁王君は歯切れの悪い曖昧な答え方をした。
私には、仁王君が何で今一緒に居るのかが不思議でならなかった。

「あー！うさちゃんー」
偶々通りかかった玩具売り場で、妹がウサギのぬいぐるみを目敏く見つけてしまった。
「なっちゃん、ウサギさんはサンタさんから頂いたでしょう？」
「うさちゃんん～～」
駄々をこね、今にも泣きそうだ。
「なっちん、このうさちゃんでいいのか？」
「仁王君…！」
妹をどう宥めようか思案している間に、仁王君がウサギのぬいぐるみを手に取っている。
「あー♪」
そして、レジへ真っ直ぐ行き、ぬいぐるみを買っているではないか。
「ちょ、何してるんですかっ？」
「何って、なっちんへのプレゼント」
「そんなの困りますよ」
仁王君を止めようとワタワタしている間に、仁王君はさっさと会計を済ませてしまった。
「俺がしたいんだ。いいじゃねぇか。はいよ、なっちん」
「あー♡」
お気に入りのぬいぐるみを手にしてご満悦の妹の様子に、仁王君はニコリと笑う。
だが、自分は疲労がさらに増した。


ぬいぐるみという予想外の荷物が増え、それに気をつかってくれたのか、仁王君は私の家まで荷物を運んでくれた。
「すみません。わざわざ家まで持って頂いて…」
「これぐらい別になんともないぜよ」
まだ誰も帰っていない家の中は妙に静かで、私と仁王君の声がいつもより響いて聞こえた。
とりあえず玄関先に荷物を置き、仁王君を見送ろうと顔を合わせた時、ふと、疑問が湧いた。
「…あの…仁王君、ご自分の買い物はよかったんですか？」
思い起こせば、仁王君が妹へのぬいぐるみ以外買ってないことに気付いた。
私の質問が予想範囲内だったのか、仁王君は片方の口端を上げて、

「ヒロとデートするのが目的だからいいの」

と、のたまった。

「は？」

答えの意味がわからず、呆けている間に唇を奪われた。

「じゃ、来年もよろしく。なっちん、また遊ぼうな～」
「あー♡」
妹にもキスをし、仁王君は手をヒラヒラと振って去っていった。


仁王君の遠ざかる姿を見ながら、またしても仁王君のペースに嵌っていた事に、今更ながら気づいた――――