「何ですか？これ…」

“それ”を見つけたヒロは、開口一番そう言った。
眉根を寄せて、明らかに不審なものをみる顔つきだ。
「何って、プレゼントに決まっとろーが」
ヒロの反応が思ったとおりなことに、口元が緩む。
「私にプレゼント…」
益々顔が渋くなるヒロの表情が、たまらなく可笑しい。
「何も、怖がるようなものは入っとりゃせんよ」
「しかし…仁王君が私にプレゼントしたところで、何の得にもならないと思うのですが？」
「好意ですることにその言い草は無いんじゃないの？」
「すいませんね。仁王君が優しい時は、何かあるんじゃないかと…今までが今まででしたので、どうも疑り深くなってしまって…」

確かに、俺はヒロを散々からかっては遊んでたけどよ。
自業自得とはいえ、少し寂しい気がした。

「俺、ヒロに対しては誠実な方なんだけどな」
精一杯、虚勢を張って笑ってみせる。
「そうですか、仁王君の“誠実”がどんなものかよくわかりましたよ」
ヒロは、プレゼントをさっさと鞄にしまうと部室を出て行こうと踵を返した。
ヒロが俺からのプレゼントを喜ぶとは端から思っていない。
だけど、どこかで期待していたのも確かで…

「…おい、お礼、まだ聞いてない」
「これは失礼。どうもありがとうございました」
無表情で、まるで義務のように言うヒロのその言葉に、俺は無性に腹が立ってきた。

ドアに手を掛けた柳生の腕を思い切り掴んで、俺の方を向かせた。
「…っ…、仁王君、痛いです…」
「…俺が、お前の誕生日を祝っちゃ悪いのかよ…」
掴んだ腕に力が籠もる。
その拍子にヒロの眉根が歪む。

「俺が、お前の喜ぶ顔を期待しちゃ悪ィのかよ！」

思わず出てしまった言葉。言ってから後悔した。
変な間が流れた。

ヒロは暫く黙っていたが、静かに口を開いた。
「誰もそんな事は言ってないでしょう…」
「…じゃあ、義理でもちっとは笑ってくれよ」
「仁王君……」
ヒロは困ったように俺を見つめた。

「わかってんよ。こんなときに喜んでくれって、無茶言うけどさ…でも、嘘でもいいから、ヒロに喜んで欲しいんだよ。それだけでも俺にとっては嬉しいんだ…」

僅かなことで喜べる、幸せ。
たぶんこの想いは、今しか感じられないと思う。

「す、すいませんね…私は生まれつき表情に乏しくて…」
ボソボソとヒロが呟いた。
「…え？」
「これでも、凄く喜んでいるんですけどね…」

その拗ねた表情が、愛しくて――――

「…ハッ、…なんだよ、ったく…」
自分一人がマジになって、馬鹿みたいだと自嘲した。


「…じゃ、改めて、っと…」
咳払いをひとつ。
顔を赤らめて俯くヒロの頬をそっと撫でた。

「誕生日、おめでとう…」