眼鏡夫婦

【帰り道】
「あ、手塚、あそこ!あそこ!」
乾が雑草を指差す。
「何だ?」
「イヌフグリ」
「?」
「これの花言葉ってね『私はあなたに心を捧げる』って言うんだよ?」
「………………」
…恥ずかしいことを言う男だな…
「…じゃあ、俺は『アツモリソウ』だ…」
「アツモリソウ?」

「『私を勝ち取ってください』」

恥ずかしいから走って逃げた……

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【no title】
隣りに並んで歩く君の肩が微かに震えた。

「手塚、少し寄り道していかないか?」
目の前のコーヒーショップを指差して、入店を促す。
「……別に構わんが…」


「適当なとこ座ってて。注文してくる」

君の好みは知っている。
二人分のカップをトレーに乗せ、君の元へ。
カウンター席に座る君を見つける。
寒さで少し丸めた背中がらしくもないと思いつつ、一方で愛らしいと感じる自分がいる。

こんなこと言うと君は怒るだろうな…


「はい、手塚の分」
「ありがとう」

カップを両手で包み、さっきまで白かった君の指先に赤みが戻る。
君は静かに息を吐く。

そして、
ゆっくりと口端を上げる。

君のささやかな幸せを見るのが、
俺の何よりの幸福

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【no title】
僕をこんなに甘やかす
君に怒っているんだ。


「ごめんっ、ごめんってば、手塚」
「……何がだ?」
「え?何がって…何が…?」
「…理由もわからずに謝ったのか?何でも謝れば済むと思って…まったく…」
「…ごめん…」
「……!!っだから…!!」
「っわ、ごめんっ、もう言わないからっっ!ごめん!」
「乾ッ!!」

(以下エンドレス)

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【四月バカ】
「手塚は嘘をつく時、視線が斜め45度…つまり、俺の肩口を見ている」
「…そんな統計とるな」
「俺には手塚の嘘は通用しないよ」
「そうか……だったら俺はお前と別れる」

「えっ?!」


「フッ…嘘だ」

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【乾誕1】
(とあるレストランにて)
「……乾…」
「何?手塚」
「今日はお前の誕生日だよな?」
「そうだね」
「俺がお前を祝ってやってるんだよな?」
「うん」
「………」
「あ、ホラ手塚、料理冷めちゃうよ?」
「……何で俺が好きな物を買って貰って、あまつさえお前が奢ろうとしてるんだ?」
「手塚の喜ぶ顔が何よりのプレゼントだもの」
「…………」
「手塚とこうしているだけで素敵な誕生日だよ。今日はとても幸せな日だ」
「……ならいい…」

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【手塚誕1】
「お前の誕生日には何でか知らんが俺がプレゼント貰ったりご馳走されたりしたからな…今日の俺の誕生日にはお前の望む事をして過ごすぞ。何か欲しいものとかないのか?乾」
「俺が欲しいのは手塚の愛だけだよ♡」
「抽象的なものは却下」
「…(寂)…じゃあ………手塚の唇♪」
「!!!!!!!」
「おめでとう、手塚。はい、プレゼント」
「…む、(また、プレゼントを貰ってしまった…)」
「あ、いちごのケーキもあるからね♡」

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【乾誕2】
「乾、誕生日プレゼントに欲しいものはあるか?」
「手塚が居れば何も要らないよ」
「…………」
「そこでなんで残念そうな顔するかな」
「どうも目に見えないものは達成感が無いというか…お前が本当に満足しているのかわからなくて不安になる」
「じゃあ、写真集の『名峰100選』でも貰おうかな」
「そうか!…って、それは俺が欲しいものではないか」
「うん」
「俺を揶揄っているのか?!」
「揶揄ってないよ。はい、手塚」
「何だ?…って、これ…『名峰100選』…」
「手塚が喜んでくれたら、それが俺へのプレゼント」
「お前はまたそういう…」

「手塚と一緒に居られるだけで満足だよ」

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【手塚誕2】
「手塚、誕生日おめでとう」

いつも
いつも、

お前は俺が欲しいものを与えてくれる

「…ありがとう…」

感謝の気持ちでいっぱいなのに、
それを口に出すのが妙に気恥ずかしくて、
ありふれた言葉で誤魔化した。


本当は

お前が好きだ、と伝えたい

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【Whiteday】
「手塚、のど飴いる?」
「ん?…ああ…」
「手塚、俺のから揚げ1ヶあげるよ」
「…ありがとう…」
「手塚、おやつにクッキーあるよ」
「ん、」
「手塚、食後にココア淹れたよ」
「…マシュマロ入りか…珍しいな…」
「手塚、前に欲しいグリップテープがあるって言ってたよね。店で見かけたから買ってきたよ」
「…わざわざすまんな。大事に使わせてもらう」

「手塚、手塚」

(チュ)

「大好きだよ」


「……知ってる…」


※乾は日頃から手塚を餌付け(笑)してるので、ホワイトデーのプレゼントも関係ないっていう…話

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【no title】
 「      」
って言ったら乾はどんな顔をするだろうか。
いつもの様に困ったように笑い、口では「仕様がないな」と言いつつも、結局は聞き届けてくれるのだろうか。

時々思う。
俺以外にもそんな顔をするのかどうか。


「……乾…」
「何?」

  「      」

乾はやっぱり、困ったように笑った



 「      」
って言ったら手塚はどんな顔をするだろうか。
いつもの様に眉根を寄せて怒りつつも、結局は聞き届けてくれるのだろうか。

時々思う。
俺以外にもそんな顔をするのかどうか。


「……手塚…」
「何だ?」

  「      」

手塚はやっぱり、眉根を寄せて怒った

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【君といつまでも】
君と生涯を共にするとは、正直思いもしなかった。
10代の頃は、永遠を誓っても『そういう年頃』なんだと、
大人になれば『想い出』になる刹那的な感情なんだと思っていた。

だけど、今、僕は君と居る。
君と生活している。
君と年老いていこうとしている。 


 「おかえり」
 「ただいま、手塚」

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【no title】
乾との最中に、何故だか大和部長を思い出した。
何故なのか、眠りについて記憶がなくなってもわからなかった……


乾が布団からもそりと出たのに気付き、目が覚める。
ぼんやりした頭で乾を眼で追う。
リビングに掛けてある鏡の前で、顎をなぞっている。

「あー…だいぶ延びてきたなぁ……」

あ、そうかーー

昨夜のモヤモヤが晴れた
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