眼鏡夫婦
いつも最後尾車両に乗る客がいる。
それに気づいたのは、ここ最近。
とても目を引く容姿をしていたから、何気なく観てはいた。
そしたら、車掌が見える窓越しにいつも体を寄せている彼が、気になりだした。
乗り降りが便利だからその車両に乗っているのか。
しかし、俺はその人が降りた所を一度も目にしたことがない。
俺は、ある賭けをすることにした。
その人が乗ってくる日に休暇を取り、同じ車両に乗ることにしたのだ。
決行当日
次はあの人が乗ってくる駅だ。
来た!
あの人だ!
俺は気づかれないようにそっと観察してみる。
彼はちらりと車掌席を観、次の駅で降りてしまった…
俺は慌てて追いかけた。
「す、すいません!降ります!」
いつもはこの駅で降りたりしていなかったから。
車掌席を見ていた彼は、何か…がっかりしたような…そんな表情に思えた……
勘違いでもいい。
俺はその人に声を掛けてみた。
「あ、あの…」
その人が振り向く。
「!!」
俺の顔を見るなり逃げようとする彼の手を、俺は思わず掴んでしまった。
「ま、待ってくださいっ…」
「すみません!」
改札前でようやく捕まえた時、彼がいきなり謝りだした。
「……え?」
「俺がいつもあなたの事見ていたの気づいてらしたんでしょう?それで…」
「あ、いや、咎めるつもりはないよ?ただ、その、君のその行動の理由が知りたくて」
すると彼は、一呼吸置いて話始めた。
「あなたの声が…良いなって…」
「声?」
俺自身、もてる容姿ではないと自負しているので、どこが気に入ったのか興味はあったが…さすがに声とは思わなかった…
「車内アナウンスを聴いて、丁寧で心地良い声だな、って。一体どんな人が話しているんだろうって思ったら、気になって…」
「それで車掌の見える最後尾車両に?」
「す、すみませんっ…こんな、ストーカーみたいな…」
俯いて顔を赤くしながら話す彼を観て、とても愛しく感じる自分がいた……
「ねぇ、これも何かの縁だし、君の事も知りたいな」
「え?」
彼はかけている眼鏡のフレームと同じように眼を丸くする。
「そこの喫茶店でも入る?…あ、俺の名前は乾貞治。勤務日は大体……」
そうして彼を見ていた日常が、彼と過ごす日常へと変わるーー
