手塚と帰ろうと、玄関に向かう途中の廊下で人とぶつかった。
相手はバラバラと提出用と思しきノートを落とした。
「あぁ…すいません。大丈夫ですか？」
「いや、こっちこそ。怪我はないか？」
相手は少しズレ気味な眼鏡を押し上げ、一所懸命ノートを掻き集めながら俺に言った。
上履きのカラーから上級生だと判明したが、なんとも先輩らしからぬ――ぶっちゃけ可愛い感じの先輩だった。

「職員室までですか？」
「え？あ、うん」
「手伝いますよ」
「そんな、悪いよ」
と、言いつつ、なおも胸元でノートを支える姿を見たら、誰でも手伝いたくなるだろう。
俺はノートを半分持ち、先輩と一緒に職員室へ向かった。
「君…新入生だよね？」
「ええ」
「随分体格いいけど、身長いくつ？三井と同じくらいかなぁ…」
先輩は、俺とその場にいない「誰か」とを比べ、見上げる。
そいえば、この先輩と手塚の身長も同じくらいかも…。
「１８４です」
「あ、やっぱり。…君、バスケとか興味ない？」
「ありますよ。でも、申し訳ないですが、入る部活決めているので…」
高身長であると、大抵バスケットかバレーボールをやっているのかと問われる。
テニスも結構高身長が有利なスポーツなんだけど。知名度の差だろうな…。
「そっかー、君、身長もあるし、バスケ部に誘おうと思ったんだけど…」
「すいません。見学させていただければ、見に行きますが？」
「いいよ、別に。あ、でも気が向いたら試合の応援には来てくれよ」
「ええ、是非」

そうして職員室前で先輩と別れ、俺は眉間に皺を寄せて待ってるであろう手塚の下へ、どうやって機嫌を直してもらおうか考えつつ、急いで走っていった。


「遅いぞ、乾」
「ごめん、ごめん。ここに来る途中で上級生に誘惑されちゃってさ」
「………ほう…」
「眼鏡姿が可愛くてね、なんか守ってやりたくなる感じだったな」
「…どうせ、俺は可愛げなどないからな…」（ボソリ）
「それで、その先輩がね、『バスケに興味ないか？』て」
「………！？」
「その先輩に言われて、どうしようかと思ったけど、やっぱり俺には手塚がいるし、テニスが好きだし…と思って断ったんだよね」
「………乾…」
「うん？」
「……それは、『誘惑』でなく『勧誘』だろ！日本語は正しく使えっっ！！」

「手塚が一番可愛いよ」

「うるさい、うるさい。お前なんかバスケでも何でもやってろっっ」