眼鏡夫婦
10月7日、午前5時30分
手塚に誕生日プレゼントをいち早く渡すため、いつもより早起きをした。
午前6時43分、手塚家到着予定。
それから手塚にプレゼントを渡し、一緒に登校する。
完璧な計画だ。
俺の気持ちを手塚へ存分にアピールできるだろう。
午前6時40分
「……くそっ…」
初っ端から交通事故に遭遇。
これからの事を暗示している様で不安を覚える。
途中でバスを降り、そこから手塚の家まで走った。
43分を過ぎれば手塚は家を出てしまう。
二人きりになれるチャンスが無くなってしまう。
「…42分…ハァ、…なんとか間に合ったな…ゼェ…自己タイム更新か…」
息も切れ切れのまま俺は手塚が出てくるのを待った。
しかし、一向に出てこない。
訝しく思い、俺はおもいきってインターホンを押してみた。
応答したのは手塚のお母様。
「国光ならもう学校へ行ったわよ?今日、大石君が風邪でお休みするらしくてね、それで国光が代わりに」
恨むぞ、大石!
よりによってこんな日に風邪を引かなくてもいいじゃないか。
今日は厄日か。それとも不二あたりの陰謀か…(後者の方が可能性あるな)
綿密にシュミレートしたが、そう簡単に手塚にプレゼントは渡せそうにないかもしれない。
いや、今日は。今日こそは手塚に、この気持ちを…
あれこれ考えているうちに、手塚にプレゼントを渡す機会が減っていく。
俺は矢継ぎ早に礼を言ってから急いで学校へ向かった。
手塚が鍵を開ける為早く出たのなら、今のうちに行けばまだ部員達は居ないはず。
人が少ないうちに渡してしまおう。
「乾がいっちばん最後~♪」
ドアを開けた瞬間飛び込んで来た菊丸の楽しげな声に、俺はがっくりと肩を落とした。
…何故だ。何故みんな居る…。
いつも時間ギリギリに来る越前や桃城よりも後になるなんて。
「なんか、親父が珍しく早起きしてて…暇つぶしに付合わされんのヤだから早く出てきたス」
「俺、昨日自転車壊しちゃったんで、こりゃ早目に家出なきゃなーと思ったら結構早く着いちゃって…」
何故、今日はこんなに偶然が重なるんだ…。
やはり不二の陰謀か…。
チラリと横目で不二を見る。相変わらず嘘くさい笑みをたたえてる。
俺の視線に気づいたのか、その貼りついた笑みで俺の方を見る。
「…乾、一番最後に来たレギュラーはランニング3週追加だよ?」
そうだった。決まって越前だったから、そんなルールがあった事をすっかり忘れていた。
「久しぶりに走らないで済むなー」
コートへ向かう越前に嫌味(に聞こえた)を言われ、
「気の抜き過ぎだ」
手塚には注意されてしまった。
手塚にプレゼントが渡せない上に、格好悪いところまで露呈してしまった。
授業が始まれば、今以上にプレゼントは渡せなくなる。もう既に下駄箱、机、ロッカーは一杯だろう。
だから直接渡したかったんだけど…。
午後12時17分
俺は昼食もそこそこに、パターン別にシュミレートした『手塚へのプレゼント作戦』を書いたノートを広げ、次の手をどれにするか考えた。
手塚は大抵一人で昼食をとる。静かに落ち着いて食べたいのが理由らしい。
手塚が好きな場所は…図書室、屋上、裏庭…この時間なら部室もありか。
この昼休みに賭けるしかない!
午後12時48分
…と、意気込んで手塚を探してみたものの、どの場所にも手塚はいなかった。
「すまんな、手塚。昼休みを使わせてしまって」
…ん?
「いえ。では、放課後はこのメニューを参考に進めたいと思います」
「頼むよ」
探していた手塚は、竜崎先生と職員室から出てきた。
「や、やあ…今日の部活のメニュー?」
「あぁ…今日、竜崎先生が急な出張が入ったとかで放課後はいないから、昼休みのうちに決めておこうという事になってな」
「……そう…」
「…なんだ?」
さすがに職員室の前で渡すわけにないかないよな…
「いや、別に」
「あ、手塚先輩いた――!!」
本日やっと来た手塚とのひとときをかみ締めていたら、キンキンと響く声が近づいてきた。
「お誕生日おめでとうございますぅ」
「…あぁ…」
きゃいきゃいと一方的に盛り上がり、嵐のように去っていった1年生女子。
手塚、この手の女子苦手だよな。
…あ、眉間の皺が0.2㎜深くなってる。
でも、女子のこういう所が時々羨ましかったりする。
それにしても…昼休みももうすぐ終わり。
残るは放課後の部活だけになってしまった。
午後4時30分
「乾、大石が休んでるから今日のメニューの確認を代わりに見てもらいたいのだが…」
部活開始直前、思っても見なかった手塚からのお誘い(※誤解)
いつもは大石としているメニューの確認を、俺に頼んできてくれた。
それだけでもかなり嬉しい。
且つ、部室に二人きり。これはまたとない絶好のチャンス。
俺はポケットにプレゼントを忍ばせ、手塚に渡すタイミングを計った。
「それじゃ、今日はこのメニューでいこう」
手塚が席を立とうとした。
今だ!
「あ、…手塚…誕…」
「いや~ラケット忘れるなんて、俺ってかなり間抜けだな…ハハ…」
「フフ、タカさんってば、うっかりさんなんだから♡」
突然入ってきた河村と不二。
………何故今日はこうもツイてないんだ…
ラケット持たなくてどうやって部活する気だ。
というか、お前もう部活するな、と毒づいてやりたい感情を押えて、俺は4度目のチャンスを逃した。
午後6時47分
俺とした事が…朝からの災難続きのショックからか、手塚の誕生日プレゼントを部室に置き忘れてしまった。
慌てて学校へ戻る。
すると、部室にまだ灯りがついていた。
「あれ、手塚…?」
「……乾…」
「どうしたの?」
「今日貰ったプレゼントなんだが、一度に持って帰れないから食べ物類と思しき物から先に持って帰ろうと思って」
手塚は、袋の感触や重さを入念に確認してプレゼントを分別していた。
「乾はどうしたんだ?」
「あ、俺は忘れ物…」
と、自分のロッカーを見渡したが、プレゼントは見つからなかった。
部室内も探したが無かった。途中の道で落としたか…今日はとことんツイてないな…。
俺はプレゼントを諦め、手塚に向いた。
「運ぶの手伝ってあげるよ」
「悪いな、乾」
「別にいいよ」
大量のプレゼントが入った紙袋を下げて手塚と並んで歩く。
「遠回りになるだろう?」
「全然平気だって。ここら辺ジョギングコースだし…」
「そうか…」
手塚の家から俺の家まで約600m。ジョギングするには少し(かなり?)無理がある。
それを信じてしまうんだから、手塚らしいといえばらしい。というか無茶苦茶可愛い。
あぁ、あのプレゼント…沢山考えて、悩んだ末選んだんだよな。手塚喜んでくれるかな、とか…。惜しい事したな。
でも、せめて気持ちだけは伝えたい。
「有難う乾。助かった」
「…手塚、」
家の中へ入ろうとする手塚を引き留めた。
「…?」
「…あ、……た、誕生日…おめでとう…」
手塚は、フッと微笑んだ後「また明日な」と言って家の中へ入ってしまった。
「……あ、うん…」
俺は上げた手を手塚の背中に力なく振り続けた。
10月8日、午前7時00分
「昨日はすまなかったな、手塚」
大石は一日で復帰した。
大石が休まなければ昨日はバラ色の人生だったかもと思うと、その爽やかな笑顔が逆に恨めしい。
「あれー?手塚、新しい時計してる~」
菊丸に目敏く見つけられた手塚が、困った顔をしている。
…え?時計?
「どうしたの?それ」
「誕生日プレゼントだ」
「ほぇ~。これ、結構レアで高いんだよね?」
「そうなのか?」
「価値のわからない手塚にあげるなんて…贈った人は何でこれを選んだんだろうな~」
「この形は好きだし、文字盤も見やすくて気に入ってる」
そう…手塚にあげるはずだったプレゼントは、手塚に似合うと思って買った時計だ。
シンプルで、手塚の細くて白い手首に似合うと思った。希少価値なんて全く考えていなかった。
…それに、こっそりペアだったりする。
俺は、もしかすると思い、他の奴らの目を盗んでこっそり手塚に訊いてみた。
「手塚、その時計…」
「あぁ…これな…」
手塚は、極上の笑顔でこう答えてくれた。
「大好きな人にもらったんだ」
その言葉だけで、昨日の凹みが嘘のように払拭された。
手塚に誕生日プレゼントをいち早く渡すため、いつもより早起きをした。
午前6時43分、手塚家到着予定。
それから手塚にプレゼントを渡し、一緒に登校する。
完璧な計画だ。
俺の気持ちを手塚へ存分にアピールできるだろう。
午前6時40分
「……くそっ…」
初っ端から交通事故に遭遇。
これからの事を暗示している様で不安を覚える。
途中でバスを降り、そこから手塚の家まで走った。
43分を過ぎれば手塚は家を出てしまう。
二人きりになれるチャンスが無くなってしまう。
「…42分…ハァ、…なんとか間に合ったな…ゼェ…自己タイム更新か…」
息も切れ切れのまま俺は手塚が出てくるのを待った。
しかし、一向に出てこない。
訝しく思い、俺はおもいきってインターホンを押してみた。
応答したのは手塚のお母様。
「国光ならもう学校へ行ったわよ?今日、大石君が風邪でお休みするらしくてね、それで国光が代わりに」
恨むぞ、大石!
よりによってこんな日に風邪を引かなくてもいいじゃないか。
今日は厄日か。それとも不二あたりの陰謀か…(後者の方が可能性あるな)
綿密にシュミレートしたが、そう簡単に手塚にプレゼントは渡せそうにないかもしれない。
いや、今日は。今日こそは手塚に、この気持ちを…
あれこれ考えているうちに、手塚にプレゼントを渡す機会が減っていく。
俺は矢継ぎ早に礼を言ってから急いで学校へ向かった。
手塚が鍵を開ける為早く出たのなら、今のうちに行けばまだ部員達は居ないはず。
人が少ないうちに渡してしまおう。
「乾がいっちばん最後~♪」
ドアを開けた瞬間飛び込んで来た菊丸の楽しげな声に、俺はがっくりと肩を落とした。
…何故だ。何故みんな居る…。
いつも時間ギリギリに来る越前や桃城よりも後になるなんて。
「なんか、親父が珍しく早起きしてて…暇つぶしに付合わされんのヤだから早く出てきたス」
「俺、昨日自転車壊しちゃったんで、こりゃ早目に家出なきゃなーと思ったら結構早く着いちゃって…」
何故、今日はこんなに偶然が重なるんだ…。
やはり不二の陰謀か…。
チラリと横目で不二を見る。相変わらず嘘くさい笑みをたたえてる。
俺の視線に気づいたのか、その貼りついた笑みで俺の方を見る。
「…乾、一番最後に来たレギュラーはランニング3週追加だよ?」
そうだった。決まって越前だったから、そんなルールがあった事をすっかり忘れていた。
「久しぶりに走らないで済むなー」
コートへ向かう越前に嫌味(に聞こえた)を言われ、
「気の抜き過ぎだ」
手塚には注意されてしまった。
手塚にプレゼントが渡せない上に、格好悪いところまで露呈してしまった。
授業が始まれば、今以上にプレゼントは渡せなくなる。もう既に下駄箱、机、ロッカーは一杯だろう。
だから直接渡したかったんだけど…。
午後12時17分
俺は昼食もそこそこに、パターン別にシュミレートした『手塚へのプレゼント作戦』を書いたノートを広げ、次の手をどれにするか考えた。
手塚は大抵一人で昼食をとる。静かに落ち着いて食べたいのが理由らしい。
手塚が好きな場所は…図書室、屋上、裏庭…この時間なら部室もありか。
この昼休みに賭けるしかない!
午後12時48分
…と、意気込んで手塚を探してみたものの、どの場所にも手塚はいなかった。
「すまんな、手塚。昼休みを使わせてしまって」
…ん?
「いえ。では、放課後はこのメニューを参考に進めたいと思います」
「頼むよ」
探していた手塚は、竜崎先生と職員室から出てきた。
「や、やあ…今日の部活のメニュー?」
「あぁ…今日、竜崎先生が急な出張が入ったとかで放課後はいないから、昼休みのうちに決めておこうという事になってな」
「……そう…」
「…なんだ?」
さすがに職員室の前で渡すわけにないかないよな…
「いや、別に」
「あ、手塚先輩いた――!!」
本日やっと来た手塚とのひとときをかみ締めていたら、キンキンと響く声が近づいてきた。
「お誕生日おめでとうございますぅ」
「…あぁ…」
きゃいきゃいと一方的に盛り上がり、嵐のように去っていった1年生女子。
手塚、この手の女子苦手だよな。
…あ、眉間の皺が0.2㎜深くなってる。
でも、女子のこういう所が時々羨ましかったりする。
それにしても…昼休みももうすぐ終わり。
残るは放課後の部活だけになってしまった。
午後4時30分
「乾、大石が休んでるから今日のメニューの確認を代わりに見てもらいたいのだが…」
部活開始直前、思っても見なかった手塚からのお誘い(※誤解)
いつもは大石としているメニューの確認を、俺に頼んできてくれた。
それだけでもかなり嬉しい。
且つ、部室に二人きり。これはまたとない絶好のチャンス。
俺はポケットにプレゼントを忍ばせ、手塚に渡すタイミングを計った。
「それじゃ、今日はこのメニューでいこう」
手塚が席を立とうとした。
今だ!
「あ、…手塚…誕…」
「いや~ラケット忘れるなんて、俺ってかなり間抜けだな…ハハ…」
「フフ、タカさんってば、うっかりさんなんだから♡」
突然入ってきた河村と不二。
………何故今日はこうもツイてないんだ…
ラケット持たなくてどうやって部活する気だ。
というか、お前もう部活するな、と毒づいてやりたい感情を押えて、俺は4度目のチャンスを逃した。
午後6時47分
俺とした事が…朝からの災難続きのショックからか、手塚の誕生日プレゼントを部室に置き忘れてしまった。
慌てて学校へ戻る。
すると、部室にまだ灯りがついていた。
「あれ、手塚…?」
「……乾…」
「どうしたの?」
「今日貰ったプレゼントなんだが、一度に持って帰れないから食べ物類と思しき物から先に持って帰ろうと思って」
手塚は、袋の感触や重さを入念に確認してプレゼントを分別していた。
「乾はどうしたんだ?」
「あ、俺は忘れ物…」
と、自分のロッカーを見渡したが、プレゼントは見つからなかった。
部室内も探したが無かった。途中の道で落としたか…今日はとことんツイてないな…。
俺はプレゼントを諦め、手塚に向いた。
「運ぶの手伝ってあげるよ」
「悪いな、乾」
「別にいいよ」
大量のプレゼントが入った紙袋を下げて手塚と並んで歩く。
「遠回りになるだろう?」
「全然平気だって。ここら辺ジョギングコースだし…」
「そうか…」
手塚の家から俺の家まで約600m。ジョギングするには少し(かなり?)無理がある。
それを信じてしまうんだから、手塚らしいといえばらしい。というか無茶苦茶可愛い。
あぁ、あのプレゼント…沢山考えて、悩んだ末選んだんだよな。手塚喜んでくれるかな、とか…。惜しい事したな。
でも、せめて気持ちだけは伝えたい。
「有難う乾。助かった」
「…手塚、」
家の中へ入ろうとする手塚を引き留めた。
「…?」
「…あ、……た、誕生日…おめでとう…」
手塚は、フッと微笑んだ後「また明日な」と言って家の中へ入ってしまった。
「……あ、うん…」
俺は上げた手を手塚の背中に力なく振り続けた。
10月8日、午前7時00分
「昨日はすまなかったな、手塚」
大石は一日で復帰した。
大石が休まなければ昨日はバラ色の人生だったかもと思うと、その爽やかな笑顔が逆に恨めしい。
「あれー?手塚、新しい時計してる~」
菊丸に目敏く見つけられた手塚が、困った顔をしている。
…え?時計?
「どうしたの?それ」
「誕生日プレゼントだ」
「ほぇ~。これ、結構レアで高いんだよね?」
「そうなのか?」
「価値のわからない手塚にあげるなんて…贈った人は何でこれを選んだんだろうな~」
「この形は好きだし、文字盤も見やすくて気に入ってる」
そう…手塚にあげるはずだったプレゼントは、手塚に似合うと思って買った時計だ。
シンプルで、手塚の細くて白い手首に似合うと思った。希少価値なんて全く考えていなかった。
…それに、こっそりペアだったりする。
俺は、もしかすると思い、他の奴らの目を盗んでこっそり手塚に訊いてみた。
「手塚、その時計…」
「あぁ…これな…」
手塚は、極上の笑顔でこう答えてくれた。
「大好きな人にもらったんだ」
その言葉だけで、昨日の凹みが嘘のように払拭された。
