正月は親族が集まって過ごすのが年中行事であった。
小さい頃はその賑やかさが楽しみでもあった。
だけど、ここ数年はそんな集まりに煩わしさを覚える。


「はい、永四郎君、お年玉」

原因はこの叔父だ。
父親の末弟。30を過ぎても定職に就かず、昼でもブラブラしている、絵に描いたようなダメ大人。
しかし、何故か金回りだけはいい……

「…お年玉って…もう貰う歳でもないですよ、叔父さん」
「何言ってんの、僕にとってはいつまで経っても可愛い甥っ子だよ。あ、でも兄さんには内緒な」
そう言って叔父さんは俺の手ごと包んで、ポチ袋を握らせる。

この金がどんな意味を持っているか知っている。

握られた手が執拗に撫でられる意味も――
でも、あえて知らないフリをする。

「…了解しました。お言葉に甘えて、有難く頂戴いたします」

わざとらしい笑みを作り、俺はその場を離れる。



部屋に戻り、独りになった開放感でため息が漏れる。
緊張の糸が切れたのか、そのままベッドになだれ込んだ。

ふと、握られたポチ袋の存在を思い出す。

「――――…………」

『ﾋﾟ･ﾋﾟ･ﾋﾟ･ﾎﾟ…』

「……あ、平古場君？臨時収入が入ったんだけど、これから遊びに行かない？」
『どうしたん、急に』
「正月だからお金使いたいの。それだけよ」
『なんだそれ…お年玉いっぱい貰ったのか？ずっりー』
「そんなとこ。ね、甲斐君達も誘って。奢るわよ」
『…ふぅん…ま、奢ってくれんなら何でもいいや』
「じゃ、いつものとこで会いましょう」
『ああ』

用件だけ告げ、そのまま身支度にかかった。
約束の時間まではまだ余裕がある。
だが、一刻も早く叔父の顔を忘れたかった。


「あれ、永四郎君、出かけるの？」
「ええ。友達と約束してるので」
「そうだよなぁ…やっぱ家で親戚の相手してるよりは友達と遊ぶ方が楽しいよね」
「…すいません。時間なんでいいですか？」
「ああ…ゴメン。いってらっしゃい」

満面の笑みで送る叔父。
俺もそれに笑みで応える。



あなたの顔を見ずに済むのなら、地獄の果てでも楽しいですよ――――――