眼鏡女王

繁華街を歩く木手と平古場。
木手を拝み倒してなんとか扱ぎ付けたクリスマスデートだったが、平古場のデートプランは悉く裏目に出、散々な一日となった。


「そんなに気落ちしないでくださいよ」
明らかに待ち合わせ時の高いテンションと今の落ち込み具合の差が激しい平古場を見て、木手は溜息を吐きつつも慰める。
「…………」
「誘った映画は昨日で上映終了、お薦めの店は定休日…確かに平古場君のリサーチ不足には呆れましたけど…ただ歩くだけでも悪く無かったですよ?」
「……それでもフォローのつもりかよ」
「他に何て言えと?」
「…………」
やり返す言葉も無く、平古場は閉口するしかなかった。

暫く沈黙が続く。


「あぁ…忘れてました」
木手が、手にしていた紙袋の存在を思い出す。
「忘れてたって…」
クリスマス時期に合せた包装はどうみてもプレゼントだ。
その存在を忘れていたという木手の言葉に胡乱げな表情で見る平古場。
「散々歩き回って落ち着いて渡せる機会も無かったので存在を忘れかけていました」
「さっき歩くのも悪くないとか言ってたよなぁ?!……まあいいや。…な、開けてもいい?」
しかし、何だかんだ言いつつ、内心飛び跳ねたいぐらい嬉しい心境の平古場だった。

「……家で…開けてください」
「別にいいじゃん」
「ダメです」
「ケチ」
「ゴーヤー食…」
「あー、わーかったよ。家までのお楽しみにするよ」
切り札的常套句を聞かされる前に平古場の方から折れた。
木手の照れ隠しだと薄々気付いてもいたので、そんなに悪い気もしなかった。



平古場は帰宅早々自室に直行し、プレゼントの包みを剥がした。
箱に入っていたのは、手のひら大の小さな箱庭。
半球状のカプセルの中に雪だるまともみの木のミニチュアが収められている。

「…スノードーム…」

少し振ると雪を模したパウダーがキラキラと舞った。
プレゼントの入っていた箱の底にメッセージカードが添えられていた。

『今は未だ雪の降るところへ行かれませんが、せめて雰囲気だけでもと思って』

「…え、えぇぇぇ永四郎ぉ…!」

感極まってメッセージカードとプレゼントを抱き締める平古場。

硬質な文字に込められた想いを、何度も噛み締めた。


いつか一緒にこの景色を共有しましょう―――





※裏設定として、木手君も同じスノードームを買ってて、擬似雪景色共有体験をしてたりします。
ロマンチストはどっちだよ、っていう…笑
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