眼鏡女王

気候はもう初夏と言って良いような穏やかな季節。

学校近くの浜で、"もうすぐ泳げそうだ"なんて思いながら過ごしてきた、その帰り道。
各部活の部屋が並ぶプレハブ棟を裏に見ながら校舎に向かって歩く。

テニス部部室の近くに差し掛かった。
その一角にちょっとした植物が茂っている。
我がテニス部主将キャプテン・木手永四郎が個人的に育てているゴーヤー棚だ。

「木手、今年の様子はどうだ?」

木陰から見えた棚の持ち主に声を掛ける。
俺に気付いた木手は、部室棟と俺が通って来た道を隔てているフェンスの近くまでやって来た。

「そうですね…順調にいけば、7月くらいには皆さんにチャンプルーを振る舞えますよ」
「そっか。お前のチャンプルー美味いから楽しみだ」
「それはどうも」

校舎の方から昼休みの終了を知らせるチャイムが聞こえてきた。
「お、もうすぐ5限だな。一緒に戻るか?」
「いいですよ」
「じゃあ、部室棟の出入り口ンとこで待ってる」
「ええ」
木手が再びゴーヤー棚へ戻っていく。

その背中が茂みの中に消えるのを見届けてから、
俺は約束の場所へ向かった
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