１年下の後輩の切原赤也。
テニスの腕は確かだし、生意気だが可愛い後輩だ。
ただひとつ、気に食わないのは…

「柳生先ぱぁ～い、肘怪我しちゃいました～」
「まったく君って子は…。練習中に怪我して本番で役に立たないなんて以ての外ですよ？」
「すんません～。次は気をつけるっス」
「…しようがないですね……って、ちょ、切原君？！」
「先輩の膝枕、気持ちイイから好き～」
「肘の手当てに膝枕じゃなくてもよいでしょう…」
赤也は、怪我する度にヒロにじゃれ付いて来る。
ヒロが断れないのをいい事に、したい放題。
俺もまともに膝枕した事ないってのに…！
「こうすれば出来るっスよ」
俺は二人に近づき、ヒロの目前に上げた赤也の腕を叩いた。
「赤也、そんなもん、唾付けとけば直るじゃろ」
「あ、仁王先輩…」
赤也は露骨に嫌な顔をする。
「じゃ、柳生先輩に舐めてもらおー♪」
「こら、誰がヒロの唾付けろ言うた」
あわやヒロの口に触れそうになった赤也の肘を無理矢理引き剥がした。
ったく、この後輩は油断も隙もない。
「真田が呼んどる。さっさと去ね！」
赤也はブツブツと文句を言いながら立ち去る。

まだムシャクシャしてた俺は、空いたヒロの膝に寝転がった。
「に、仁王君？！」
驚くヒロに構わず、俺はそこで目をつぶり、動かないという意志を示す。
「怪我した」
「……そんなの、唾を付ければ直りますよ」
ヒロはそっけなく答える。
「…なぁ、俺には赤也みたいな手厚い看護してくれんの？」
ヒロは慈善的行為で誰にでも優しい面がある。
それがヒロの性格なんだと頭ではわかっていても、やっぱり俺だけに優しくして欲しい。
「仁王君のことはちゃんとわかってますから。大事になったら手厚い看護をしてあげますよ」
そんな俺の気持ちに気付いたのか、ヒロは微笑んで俺の前髪に触れた。

それだけで、
俺の心は癒された。