文化祭が近い在る日、立海大付属中男子テニス部では演劇をする事が決まっていた。
しかし、柳生比呂士はキャスティングに少々疑問を感じていた。

「わ～ヒロちゃんかーわいー」
「…あの…本当に私がやるんですか？幸村君や丸井君でも充分いいような気がしますが…」
ヒロイン役にされ、ドレスを着せられた柳生は、自分を囲んでいる幸村と丸井を懇願するように交互に見つめる。
「こういうのは意外性ある方が面白いだろ？」
幸村は問答無用の微笑みをたたえ、柳生を黙らせる。
「そうそう、ヒロちゃんがこういう格好するから面白いんじゃん」
「私は全然面白くないのですが…」
困り果てている所へ、今まで柳生の姿に惚けていた仁王が、柳生を抱きしめる。
「俺も正直、ヒロのこんな可愛い姿を他のヤローどもに見せたくないんじゃがな…」
仁王は“いいこいいこ”するように柳生の髪を撫でる。
「何言ってんの。一番ノリ気だったのマサ君のくせに」
「うっさい。黙っとれ」
仁王と丸井が一触即発になりそうな所へ、柳がボソリと呟く。
「化粧もしてみたらどうだろうか…」
その言葉に、他の３人の瞳が輝く。
「おー、それいいね！」
「女子から借りてこようか？」
「ちょっくら待っとれよ、ヒロ」
「…ちょ、あのっ…」
本人の意志はお構いなしに、４人は嬉々として部室を出て行く。


独り取り残され呆然としていると、４人と入れ違いに真田が部室へやって来た。
「！！…こっ、これは失礼したっ」
部室へ入るなり、柳生と視線が合った真田はピシャリと扉を閉める。
「真田君、何言ってるんですか。入らないのですか？」
その言葉に、真田はほんのり頬を染めながら、そろりと部室へ入る。
そして、柳生の顔を見てハッとする。
「あなたは…以前街でお会いした…」
「以前？」
柳生は一瞬考えるが、すぐに思い出した。
以前というのは、仁王が柳生に女装をさせて、真田がそれに気付くかどうか賭けをした時のことだ。
真田は結局気付かず、柳生は賭けに負け、仁王に色々な事をさせられた。
真田はどうやら今も気付いていないようだ。

「真田君、あのですね…」
「まったく、仁王の奴、彼女をこんな所で独りにさせてどこへ行ったんだ…」
ドレスで居る時点で文化祭の衣装だと思わないのだろうか、と頭の中でツッコミながら、柳生は真田に何とかわかってもらおうと弁明を試みた。
「あのですね、真田君…」
柳生が椅子から立ち上がろうとした瞬間、着なれないドレス故に裾を踏み、よろめき、それを支えようとした真田もろとも床に倒れた。
「大丈夫ですか？」
「…はい…何とか…」
真田が柳生を起こそうとしたその時、ジャッカルが部室の扉を開け、またピシャリと閉める。
「…今の…桑原君じゃなかったですか？」
「そうか…？」


扉の前で見てはいけないものを見てしまったと慌てるジャッカルの元へ、４人がか戻ってくる。
「おー、ジャッカル。部室の前で何つっ立ってんの？」
「…何か、取り込み中みたいで…」
「取り込み中ぅ～？」
丸井は怪訝そうな顔をする。
「中には比呂士君しかいないはずだけど？」
おかしいな、と幸村も首を傾げる。
「は？ヒロシ？」
ジャッカルは躊躇いもなく扉を開ける丸井を、ハラハラしながら見つめた。

「あ―――！！」
丸井の叫びで、残りの４人が部室を覗く。
そこには、未だ起こす態勢のまま固まっている真田と、必死に起きようとしている柳生の姿が。
「…真田ぁ、俺のヒロに変なコトしてねぇだろうなぁ？」
仁王が真っ先に真田の襟首を掴み、ドスを効かせて睨む。…が、真田は無反応。
「……？」
「あのっ仁王君、真田君…私の姿に余程ショックだったみたいで…」
柳生が自分の正体を明かすと、真田はそのまま固まり動かなくなってしまったという。
「…アホだな…」
「真田らしい…フフッ」

そして、動かなくなった人間がもう一人……


「あれ、ジャッカル？どうした？おーい、お――い！」