眼鏡紳士

兄貴が友達を連れて来た。
それまでの兄貴の友達の傾向からしたら、本当に友達なのかと疑いたくなるような、まるで正反対のタイプだった。

だから、余計にあの人との第一印象は衝撃だった。


「初めまして。仁王君とは同じテニス部の柳生比呂士と申します」
「……はぁ…どうも…」
兄貴より先に学校から帰っていた俺は、夕飯までに摘めるものは無いかと、台所を物色していた。
ポテトチップスを発見して自室に行こうとしていた所に、兄貴があの人を連れて帰って来たのだ。
きっちり45℃でお辞儀をされ、俺は手にしていたポテチの袋を落としそうになった。

「ヒロ、こいつにそんな丁寧に挨拶せんでもええよ。早よ部屋行こう」
兄貴はあの人の手を引いて、部屋に入って行く。
真面目を絵に描いたような、そんな人だと思った。
兄貴とは似付かわしくない人だとも思った。


「…なぁ、今日来てた人さ…」
「ヒロ?」
あの人が帰り、リビングに来て寛ぎ始めた兄貴に問うてみた。
「どういう関係?」
「どうって、友達に決まっとろーが」
「兄貴、今までああいうタイプの友達居なかったじゃん」
「好みが変わったんじゃ」
「…ふーん……」
「何だよ」
即答で返ってくる時の兄貴は、本音を言っているか質問内容が予想範囲内で言葉を選ぶ余裕があったかのどちらかだ。
「あの人もよく兄貴みたいなのと付合ってるな、と思って」
「みたいなって何だよ」
「またあの人連れて来てよ。どうして兄貴なんかと友達なのか聞いてみたい」
「…フン…惚気ならたぷり聞かせちゃるよ?」
兄貴は俺の気持ちを悟ったのか、口端を上げて笑った。

どうしようもないとわかりつつも、あの人への想いは募るばかりだった―――
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