もがな
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私は未だに判断しかねている。目の前の青年はあまりにも自分に優しすぎて、これが本心からなのか、何か目論見があるのか。
素直に好意を受けとるには、今までの人生色々なことがありすぎた。それでも
「太子様、綺麗ですねぇ。」
と、梅を眺めながら微笑む△△に仕事を頑張った甲斐があったなとついつい笑顔になってしまう。
「そうだろう。私が仕事を天才的な早さで終わらせたお陰だな!」
「そうですね。流石太子様です。」
今日だけでなくて、この青年は初めて会ったときから優しかった。その笑顔と優しさに胸を打たれた私は、まだ若いからと反対する回りを押し切って自分の舎人に任命してしまった。
「お弁当も美味しいです。太子様、連れて来てくださってありがとうございます。」
今までも優しくしてくれた人々はいるが、それは私が聖徳太子だから何かしらに肖れないかと近づいてくる者がほとんどだった。カレー臭いだの胡散臭いだの、かなり軽くみられている気もするし。
遣隋使に任命して一緒に旅をした妹子はなんだかんだ言いながら自分のために怒ってくれている気がして気に入っている。
「太子様、おでこにご飯粒が付いてますよ。どうやったらこんなところに付くんですか。」
可愛らしい目を細めてクスクス笑いながら△△は、私のおでこからご飯粒を取って自分の口に入れた。
あざとすぎる!いや、本人はもしかしたら無意識にやっているのかもしれないが、皆に冷たくされるおっさんには効果覿面すぎる。
この子は本当に自分のことを慕ってくれているのだろうか。でも実はあなたを油断させるためだったんですよ!なんて落ちになったらもう立ち直れない。無理すぎる。
初めは部下として大切に思っていたけど、最近ではそれを越えてしまっているのではないかと、自分の気持ちすら量りかねている。
「太子様、今日は本当にお仕事終わるの早かったですねぇ。明日も頑張ってくださいね。」
△△が誉めてくれたら、頑張ろうって思ってしまう。最近では10歳以上も年の離れた青年の一言一言に一喜一憂している。
いや、憂はないな。初めの頃はどこまで優しくしてくれるのだろうか、いつか自分に幻滅するのではないか、それなら早い方がいいと散々わがままを言ってみたが、困ったように笑いながらどうにか私を宥めようとしてくれる。パンツを履かない主義なんだ、と伝えたときなんて、そうなんですね、太子様は暑がりさんなのですね、なんて少し恥ずかしそうに微笑んだだけだった。
いい年したおっさんがこんなにも揺り動かされてしまって、でも歳を重ねて色んな経験をしてきたからこそ迂闊に落ちることができない。
「日も陰ってきましたし、そろそろ帰りましょうか。」
来年の梅が咲くときには心からこの子に好きだよって言えたらいいなぁ。