もがな
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○○△△の朝は早い。仕事が始まる2時間前には起きて身支度をする。顔を洗い、浮腫がとれるよう顔、腕、足を揉み解し、きつすぎない優しい香りのお香で焚き染めた着物を綺麗に着て、寝癖が残らないようしっかり櫛で梳かす。
最後に頭の天辺から足の先まで鏡で見て、にっこりと笑顔を作り、今日も完璧に可愛いことを確認し自宅を出る。
△△は半年前から摂政である聖徳太子に仕えている。舎人の仕事は護衛から雑用まで幅広い。
△△は舎人部の中でも若く、聖徳太子のもとで仕えることが決まったときはちょっとした話題となった。半分は哀れみの声であった。只でさえ一筋縄ではいかない相手なのにあの若さでは太子に振り回されすぐ音を上げるだろう、と。
しかし半年たった今でもその様子はなかった。それどころか誰にでも人当たりの良い性格で、その儚い雰囲気と柔らかい笑顔は女官受けもかなり良く、人を安心させるような声色で話し、そこに歌も上手く詠むらしいだの、楽器もなかなかの腕だの、尾鰭が付きまくるほどで、相当評判が良い。
主に太子の身の回りの世話や細々とした雑務を太子の側で手伝っているらしく、あまり朝廷内でも他の官職の人間は見かけることは少なかった。それがより噂に拍車をかける。
一部ではあるが、もしや見目が良いから太子に気に入られて夜の相手までしているのではないか等下世話なことも囁かれていた。
それらはしっかりと△△の耳に入ってきていたが、今まで自分の容姿を妬まれたことは度々あったし、そうさせてしまうほど自分は可愛いのだという自負があったのでいちいち落ち込みもしない。
それに△△にとって陰で下卑た人間の嫉妬の捌け口にされるぐらい、使命を全うするためにはどうでも良かった。それはしっかり仕事をし、十分に太子に気に入られて信用を得ねば成し遂げられないことだったので、△△はこの職に就いたときから完璧に業務をこなしている。
今日一日の仕事の流れや留意点を反芻しつつ、主の元へ向かう。正当な出仕時間よりは少し早い。
「太子様、朝でございますよ。頑張って起きてくださいね。」
△△の朝一番の仕事は働きたくないとぐずる太子を寝具の中から引きずり出すことだ。引きずり出すと言っても物理的にではなく、優しく声をかけて少しずつ出てこさせる。これが日によってかかる時間がまちまちなので、△△はいつも少し早く出仕している。
太子はよっぽどの時でないと正装はしないし、下着もあまり履きたくないらしいので青いジャージの上下だけを用意し着替えてもらう。それでもまだやる気のない顔をしている太子は
「梅が見頃らしいからお弁当持って今から2人でお花見に行こうよー。」
と堂々と職務放棄をしよるとする。
「梅ですか。良いですね、可愛らしいし、香りも大好きです。天気も良いですしね。今日の分のお仕事が早くに終わったら行けますよ。頑張りましょうね。」
年上で、しかも国の重要人物に向かって子供をあやす時のように優しく△△は言う。太子はちぇー、なんて口を尖らせて不貞腐れているが△△はにこにこと太子を見つめている。
「······分かったよ!びっくりするぐらい早く終わらせるからな。絶対お花見行くからお弁当作ってもらっててよ!」
今日はお花見という餌のお陰でやる気を出したようだ。
「はい!しっかり準備しておきます。いつも通りではありますが私に出来ることは何でも手伝わさせていただきますので、何なりとお申し付けくださいね。」
△△は太子にしか見せない最高の笑顔で言った。太子はその可愛らしさにたじろいでいるようであった。
今日は仕事も順調に行きそうだし、太子様と2人でお花見にも行ける、と△△も胸が高鳴っていた。
まだ仕えて日は浅いが、自分の使命は太子を数多の辛辣な言葉や妬み嫉みから守り、本当は凄い力を持っている(と△△は信じている)太子にできるだけ気持ち良く仕事ができるように支えることだと確信していた。
そこに政治的な思惑は一切なく、面倒臭がりで、意味不明なことばかりで回りを戸惑わせて、挙げ句の果てにはイカ臭いなんて言われてしまっているこのおっさんを、ただただ○○△△はどうしようもなく愛おしく思ってしまったからであった。