短編⏩️芭蕉
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「何でですか!?!?帰ってきたばかりじゃないですか!!」
松尾芭蕉は弟子の○○△△に胸倉を掴まれ責め立てられている。
ついさっきまで和やかにお茶とお菓子を楽しみながら旅の思い出を話していたのに、芭蕉がまた同じルートを辿るためにもう一度旅に出ると言うと目の色を変えて激昂した。
「曽良くんがね、一回目であんまり良い句が出来なかったからって、」
「曽良さん体調悪いって文が来てから便りが無くて、心配してたのに帰ってきて早々もう一周するってどういうことなんですか!!」
「なんか、もう良くなったみたいで、」
「はぁ!?」
話しているのに△△が胸倉を掴んだまま強く揺さぶるもんだから、弁解の余地がない。
「△△が!どんな思いで!この半年間待っていたと!お思いなんですか!」
「ごめんってば!!△△くん!!ごめん!!」
「飯盛女なんか、部屋に呼んだりしてたんじゃないんですか!楽しかったですか!?」
「してない!してないよー!うぇっ!松尾もう吐いちゃいそうなんだけどー!!」
芭蕉が手を上げて降参のポーズをとると、△△はやっと掴んでいた手を離した。べちゃっと畳に投げ捨てられた芭蕉が首元を摩りながら△△の顔を見上げると口を真一文字に結び目からは今にも大粒の涙が溢れ落ちそうだ。
「なんで△△くんが泣いちゃうのー。」
△△を抱き寄せて幼子をあやすように背中を撫でるとついにグスグスと声を上げて泣き出してしまった。
「だって、ずっと、お帰りになるのを楽しみに、しててっ。」
嗚咽混じりで話す声にうんうん、と頷きながら背中をポンポンとたたく。こんな局面なのに、着流しの胸元をきゅっと握る手を愛おしく思ってしまう。
「△△が、こんな足じゃなかったらっ、ご一緒することが出来たのにっ、芭蕉さんと、曽良さんとっ、△△も一緒に行きたかったのに······!」
「そうだねぇ。」
「見ていただこうと、書き留めておい、た、句も、いっぱいあるのに。」
「うんうん、△△くんすごいね。今日見るよ。」
△△は芭蕉の胸元から微笑みかけている顔を見上げて、キッと睨むとその頬を強く張った。
「っなんで!?!?」
頬に手を当てて△△を見ると、またボロボロと涙を流している。
「あの、曽良さんでもお体、を壊すぐらいなのですから、よっぽど大変な旅なのでしょう?でも△△が引き留める権利はないの、分かってるけど、寂し、いです。」
えぐえぐ泣きながらぎゅうっと腰に腕を回して抱きついてくるこの子が可愛らしくてたまらない。△△は師匠として自分を慕ってくれていて、こんなおっさんをなぜか愛してくれていて、ちょっと感情の起伏が激しいところはあるけど、それもまた可愛らしい。
弟子として師匠と共に創作の旅を補佐したいのにできない身体への苛立ちと、恋人として傍にいることが出来ない状況と、それらを受け止めざるを得ないのは分かっているのにわがままを言ってしまう自分に△△自信がどう感情をコントロールして良いか分からなくなってしまっているようだ。
「ごめんね△△くん。」
「芭蕉さんに、謝られたら、余計に辛くなります···。」
「うん、そうだよね、ごめんね。」
△△が芭蕉の首に顔を埋める。加齢臭とか気にならないのかな、△△くんはいい匂いがするな、なんて考えつつ頭を撫でる。少しずつ泣き声が落ち着いてきたようだ。
「······ご出立はいつですか?」
「明後日の昼前に出る予定なんだ。」
「じゃあ、今日はうちに泊っていってくださいね。」
「うん。そうさせてもらうよ。」
遠くまで行けないこの子が私の句を読んで情景を思い浮かべることが出来るといいなと思う。
私はこんな風に泣きついてくれる子がいるのに、旅に出てしまう人間だから、少しでもそれでこの子の心を満たして上げたい。
「今晩はしっかり可愛がってくださいね。」
「お手柔らかに頼みます···。」
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