短編
弁当を食いながらふと思ったことがあった。なあなあ、と話しかけると槙はスマホを見たまま「なに?」と返事をする。赤城は返事もしなかった。
「無人島にひとつ持って行くとしたらなにがいい?」
おれの他愛ない一言に赤城はものすごく考え込んだあとガスコンロと答えた。
「ガスコンロ……」
「おれ、クルーザー」
「それはずるい」
「ガソリン切れちまえ」
「嵐にあえ」
「てかガスコンロってなに? 何つくれる?」
「真水とか?」
「海水やったら塩できるだろ」
「それ」
「言われてみれば確かに」
「ガスコンロか…………」
「え、なに? おかしい?」
「いやおかしくはないけど」
意外なところを攻めてきたな、と思ったぐらいだ。
「じゃあ根津は何もってくの?」
「……なんだろうな」
「お前もわかってないんじゃん」
そんな会話をしていたのが悪かったのか。いや、でも昼休みの冗談だったはずだ。授業を受けて部活に出て家に帰ってきてなんでその会話に引きずられなきゃいけないのか。わからない……。理由もわからないのだが、目が覚めたらなぜか壊滅した都市のなかにいた。ここは、どこだろう。おれの家、いやベッド。まずはベッドにいないことを考えるべきか? 時計を見ると午前零時をぴったり示している。おれが寝たのは十一時を過ぎたくらいだ。明日の朝もまた部活があるのにこんなところで命の危険を感じていられない。
なぜおれなのか。夢ならさっさと覚めてほしい。
だが夢というには寒さも、けぶる臭いも、体につきささる視線もリアルだった。おれの周りには戦隊ものとかで見そうなショッカー的な手下がいた。
「おいこいつか?」
「そうだよ、コイツだよ」
「それにしてはやけに小さい」
「人間ってのはそういうものだ」
「カイザー様が違うということじゃ無いか?」
カイザー。皇帝……。すごい名前を聞いてしまった。手下っぽい生き物たちはおれをそのカイザーという人間の前に連れて行こうとしている。いや、人間かすらもわからない。おれは袋に詰め込まれて眠らされた。気づいたときには異様な雰囲気の前にいた。袋から出るのがとても恐かった。
「おい、出ろ」
しがみつこうとしたが、何か強烈な気配を感じて手を離してしまった。ばさり、と視界が無理矢理に開かされる。袋がやぶかれたのだ、とちょっと後になってから気づいた。
「根津、翔太だな?」
「はいぃっ!!」
「……よく来たな」
手下たちが消えた。何をされたのだろうか。考えるのもおっくうになってくる。目の前にいる巨大な生き物はほんとうに大きかった。陰になって顔がよく見えないくらいにでかいのだ。だが声はちゃんと聞こえていた。
おれはずっと黙っているままで向こうも何もしようとしなかった。しゅるしゅると布のこすれる音が聞こえたと思ったら巨体がじわじわと小さくなってきた。顔が、近づいてくる。青より濃くて、紺色よりは明るい微妙な色の髪の毛がわさわさと足下に流れてくる。クラスの女よりも綺麗な髪の毛だ。
「あれ?」
髪型とかはちがうけど、この顔って。
「井坂……??」
その瞬間、目が覚めた。やけにリアルな夢だった。
「あの、井坂」
「……なんでしょう?」
この学校ではとても有名な、王子様みたいに思われている男が井坂である。おれはクラスも部活も違ううし、生徒会などにも入ってないので彼に話しかけるなんてことはほぼなかったのだが。今回ばかりはどうしても気になることがあった。
「……い、いや。ごめん。なんでもない」
「……そうですか」
「うん……。あ、そうだ。なあ、戦隊ものとかって見る?」
「いえ、あまり見ません」
「そっかあ……」
そりゃあ親しくも無い相手からそんな突然話しかけられても仕方ないよなあ。うなりながらクラスに戻ろうとしたおれを赤城がつかまえた。
「根津~、おまえもまさか戦隊ものに興味持つなんてなあ」
「いや、興味ってほどじゃないけど」
「井坂によく似た敵キャラのいるヒーローもの、絶賛放送中! 録画してあるからうちで見ようぜ」
「まじ?」
「もちろん~~」
教えてもらったので授業を受けながらホームページを検索した。カイザーという名前ではなかった。名前を名乗らないお助けキャラ的な存在らしい。ヒーローたちからは藍さま、と呼ばれている彼はその髪の毛の色から名前がつけられたらしい。あの色は藍色っていうのか、とひとつ納得した。でもカイザーってなんだ? イザカのアナグラムなのか? もしかしたら今後の展開で裏切り者になるのかもしれない。どうしても気になるので赤城に教えてもらおうと思った。顔はどことなく赤城に似ていると思った。
「藍さま? あー、あいつはね一応未来から来たんじゃ無いか説があるよ」
「未来? すげえ、話が予想以上に壮大だった」
「ことあるごとにね、誰かを探してるんだって。それで、やっぱり見つけることができなくて。そのときの言葉はいつもこれ 時間の果てまで来ても、出会えないのか……って」
時間の果てとはまた壮大なエピソードだ。藍さまって巨大化する? と聞いたらめちゃくちゃ笑われた。それはないらしい。
その夜、またリアルすぎるあの夢をみた。今度はカイザーはおれと同じくらいの身長になっていて顔を隠すように仮面をつけていた。カイザーというよりタキシード仮面みたいだった。
「……こんばんわ」
なんとなく挨拶をしたらカイザーはうれしそうな雰囲気を出した。目元が見えないけれど、口は笑っている気がした。
「午前零時、ですね。おれ、明日もまた部活があってあんまり遅くまでは……」
「だいじょうぶ」
かすれている声だった。体が変わったせいだろうか? 前よりも声は高くなっている。
「おれが、きみをまもるから」
話がうまくかみ合ってない気がしたがなんとか笑って乗り切った。今日は何時間寝れるのだろう。
「無人島にひとつ持って行くとしたらなにがいい?」
おれの他愛ない一言に赤城はものすごく考え込んだあとガスコンロと答えた。
「ガスコンロ……」
「おれ、クルーザー」
「それはずるい」
「ガソリン切れちまえ」
「嵐にあえ」
「てかガスコンロってなに? 何つくれる?」
「真水とか?」
「海水やったら塩できるだろ」
「それ」
「言われてみれば確かに」
「ガスコンロか…………」
「え、なに? おかしい?」
「いやおかしくはないけど」
意外なところを攻めてきたな、と思ったぐらいだ。
「じゃあ根津は何もってくの?」
「……なんだろうな」
「お前もわかってないんじゃん」
そんな会話をしていたのが悪かったのか。いや、でも昼休みの冗談だったはずだ。授業を受けて部活に出て家に帰ってきてなんでその会話に引きずられなきゃいけないのか。わからない……。理由もわからないのだが、目が覚めたらなぜか壊滅した都市のなかにいた。ここは、どこだろう。おれの家、いやベッド。まずはベッドにいないことを考えるべきか? 時計を見ると午前零時をぴったり示している。おれが寝たのは十一時を過ぎたくらいだ。明日の朝もまた部活があるのにこんなところで命の危険を感じていられない。
なぜおれなのか。夢ならさっさと覚めてほしい。
だが夢というには寒さも、けぶる臭いも、体につきささる視線もリアルだった。おれの周りには戦隊ものとかで見そうなショッカー的な手下がいた。
「おいこいつか?」
「そうだよ、コイツだよ」
「それにしてはやけに小さい」
「人間ってのはそういうものだ」
「カイザー様が違うということじゃ無いか?」
カイザー。皇帝……。すごい名前を聞いてしまった。手下っぽい生き物たちはおれをそのカイザーという人間の前に連れて行こうとしている。いや、人間かすらもわからない。おれは袋に詰め込まれて眠らされた。気づいたときには異様な雰囲気の前にいた。袋から出るのがとても恐かった。
「おい、出ろ」
しがみつこうとしたが、何か強烈な気配を感じて手を離してしまった。ばさり、と視界が無理矢理に開かされる。袋がやぶかれたのだ、とちょっと後になってから気づいた。
「根津、翔太だな?」
「はいぃっ!!」
「……よく来たな」
手下たちが消えた。何をされたのだろうか。考えるのもおっくうになってくる。目の前にいる巨大な生き物はほんとうに大きかった。陰になって顔がよく見えないくらいにでかいのだ。だが声はちゃんと聞こえていた。
おれはずっと黙っているままで向こうも何もしようとしなかった。しゅるしゅると布のこすれる音が聞こえたと思ったら巨体がじわじわと小さくなってきた。顔が、近づいてくる。青より濃くて、紺色よりは明るい微妙な色の髪の毛がわさわさと足下に流れてくる。クラスの女よりも綺麗な髪の毛だ。
「あれ?」
髪型とかはちがうけど、この顔って。
「井坂……??」
その瞬間、目が覚めた。やけにリアルな夢だった。
「あの、井坂」
「……なんでしょう?」
この学校ではとても有名な、王子様みたいに思われている男が井坂である。おれはクラスも部活も違ううし、生徒会などにも入ってないので彼に話しかけるなんてことはほぼなかったのだが。今回ばかりはどうしても気になることがあった。
「……い、いや。ごめん。なんでもない」
「……そうですか」
「うん……。あ、そうだ。なあ、戦隊ものとかって見る?」
「いえ、あまり見ません」
「そっかあ……」
そりゃあ親しくも無い相手からそんな突然話しかけられても仕方ないよなあ。うなりながらクラスに戻ろうとしたおれを赤城がつかまえた。
「根津~、おまえもまさか戦隊ものに興味持つなんてなあ」
「いや、興味ってほどじゃないけど」
「井坂によく似た敵キャラのいるヒーローもの、絶賛放送中! 録画してあるからうちで見ようぜ」
「まじ?」
「もちろん~~」
教えてもらったので授業を受けながらホームページを検索した。カイザーという名前ではなかった。名前を名乗らないお助けキャラ的な存在らしい。ヒーローたちからは藍さま、と呼ばれている彼はその髪の毛の色から名前がつけられたらしい。あの色は藍色っていうのか、とひとつ納得した。でもカイザーってなんだ? イザカのアナグラムなのか? もしかしたら今後の展開で裏切り者になるのかもしれない。どうしても気になるので赤城に教えてもらおうと思った。顔はどことなく赤城に似ていると思った。
「藍さま? あー、あいつはね一応未来から来たんじゃ無いか説があるよ」
「未来? すげえ、話が予想以上に壮大だった」
「ことあるごとにね、誰かを探してるんだって。それで、やっぱり見つけることができなくて。そのときの言葉はいつもこれ 時間の果てまで来ても、出会えないのか……って」
時間の果てとはまた壮大なエピソードだ。藍さまって巨大化する? と聞いたらめちゃくちゃ笑われた。それはないらしい。
その夜、またリアルすぎるあの夢をみた。今度はカイザーはおれと同じくらいの身長になっていて顔を隠すように仮面をつけていた。カイザーというよりタキシード仮面みたいだった。
「……こんばんわ」
なんとなく挨拶をしたらカイザーはうれしそうな雰囲気を出した。目元が見えないけれど、口は笑っている気がした。
「午前零時、ですね。おれ、明日もまた部活があってあんまり遅くまでは……」
「だいじょうぶ」
かすれている声だった。体が変わったせいだろうか? 前よりも声は高くなっている。
「おれが、きみをまもるから」
話がうまくかみ合ってない気がしたがなんとか笑って乗り切った。今日は何時間寝れるのだろう。