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短編

 触手を育てろ、と誰が言い出したのだろうか。そんなことを言い出した人に会えるならこう言う。あなたのせいでこの国はモンスターの蔓延るひどい国になりました、と。

 俺の一族はその、拷問用のモンスターを調教するための一族であった。戦争で捕まえてきた捕虜だったり、極悪人たちの更生のためにモンスターたちは使われる。極悪人、と言うと変だけれどこの国では犯罪者はみな「極悪人」と呼ばれる。人を殺すのも、モノを盗むのも全て等しく「極悪人」だ。犯罪なんて思いつき実行する人間にならないように、とモンスターたちが彼らを治療する。セックス中毒者になれば困る人はいない。

 生まれた時から俺はモンスターたちを調教するという仕事を決められていた。そのことに対して不満が……あったにはあったけれど兄が亡くなり文句を言っていられなくなった。ドラマや映画のように兄が優秀だったということはない。むしろ俺よりもモンスターたちの扱いはへたくそだった。弱弱し人だったのだ。この仕事には向いていなかった。

 一族は本家と分家とあって俺たちは触手担当だった。他にもオークだとかサキュバス、インキュバスだとか色々といるらしいが細かいことは知らない。本家が統括するので分家である俺たちにはよく分からなかった。
 小さな時から触手たちと戯れていた。ぬめぬめした気持ち悪さよりも、ぶよぶよのクッションというか、とにかく乗ったり投げたりしても触手たちは文句も言わなかったので相当に遊んでいたのだ。
 小学五年生になり、俺は兄と一緒に父の部屋へ呼ばれた。そこで聞かされたのは「触手の調教」についてだった。性教育がほかの家庭よりもやけにはっきりと、かつ生々しく語られるには訳があったのだ。
 まさか大きくなって彼らに「人を襲うにはどうやるのか」と説明しなければならないとは思わなかったし、実践でやって見せるのにも驚いた。俺はもっと学校的な教育を想像していたのだ。
 しかも、俺たちがやられるのではない。触手に……挿入するのだ、俺たちが。
 触手たちは中に突っ込まれることを生理的に嫌がる。それをわざとすることによってストレスをため込み、より強くさせる、らしい。細かな設定は俺もよく分からない。兄が仕事を引き継ぐと思っていたし、俺は裏方で何か仕事をするんだなあ、と思っていたのだ。
 なので成長した触手たちに俺たちは嫌われている。言うことを聞かなかったら仕置きとして俺たちはまた突っ込む。触手たちは痛いのは嫌いだし、女や男にくっついて体液を搾り取る方が楽だし満足できるからそちらを頑張ろうとする。触手たちは家畜として消費されていた。分かりやすい仕組みである。だがこの触手802号だけは……おかしな存在だ。仕置き率がなぜこんなにも高いのか。俺は調教師として兄弟や父親から怒られるのだが、そんなこと言われても仕方ない。この触手は……おそらく、俺が突っ込むことに痛いとか気持ち悪いとか、感じてないのだと思う。
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