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短編

「俺も一緒に寝たいょおおお!」
「おう、お前うるさいぞー。」
「玄ちゃん、俺の事うるさいってぁあえ!」
 泣き方がどうにも分からないこのロボットはガシャガシャと機械の瞳を瞬かせて俺の家に何とかしがみつこうとしている。そんなに広くないこの家ではそんな風にされても困るだけだ。ほれ、と背中を押すとビーツは油塗れの顔を押し付けてきた。ベトベトするが仕方ない。こんなのでもパートナーである。


 この国は一昔前は戦争をしていた。何百年と昔の話である。人間は死んだら使い物にならないから戦闘兵器のロボットを作ったらどうだと、とあるマッドサイエンティストが言う。そうして作られたのがこのビーツたちだった。ビーツは所謂変異体というやつで、なんの拍子にか彼は自我を持った。非科学的な幽霊だとか魂だとかそういうものが彼の中に入り込んだのだ。おかげでビーツは廃棄されると分かった運命に抗おうと何度も暴れた。仲間達が溶けていく様を見つめて心を壊し、人間を殺そうと暴れていた。
 何でそんなことがわかっているかと言うと俺はそのマッドサイエンティストの息子なのである。あの人は頭がおかしかった。実の息子すらも実験材料として腕や脚を切り取るお人である。俺はビーツたちのように1部だけ体を機械にせざるを得なかった。
 話を戻すと、ビーツは立てこもり事件を起こした。ああこれは捕まるかなとテレビの向こうの世界を想像していた。ビーツは交渉人として俺を呼んだ。あの人がもうこの世にいないと知っていたから俺を捕まえて報復したいのだと思った。機械の脚は重たい。引きずりながら現れた俺を見てビーツは「俺はもう人は殺さない。」と宣言した。
「お前たちの支持に従う。だから、こいつのそばに居たい。」
 ビーツのこの発言はたくさんの問題があった。だがいつ戦争が起きるかも分からない中で俺という存在を生贄に差し出したならばという未来をとった。被害者遺族たちからは俺も恨まれることとなった。当たり前だろう。殺人兵器は俺のために生きたいと言い出したのだから。結局俺達は収容所らしきところに監禁されている。囚人たちのように仕事を与えられ、人並みの生活をしているが太陽などを見ることは無い。
 そんな俺たちの元にお掃除ロボットが支給された。修理せよという仕事だったが一日で修理が終わったのだ。明日の朝食で返却すればいいよな、と思いベッド近くに設置したらビーツはそれはもう怒った。ビーツには「ずるい」と怒る感覚がなかった。ただただ「嫌だ! 嫌だ!!」と怒っていた。しまいには「玄ちゃんのばーかばーか!!」と不貞寝した。
「ビーツ、ほら寝るぞ。」
「ふん!」
 ビーツは床にふて寝したままで、俺は仕方なくベッドに潜り込んだ。明日になればあいつの機嫌も治るだろうと高を括っていた。
 翌朝、ベッドの横に設置したお掃除ロボットは消えていた。ビーツに聞くと「回収されてった。」と言う。まあ、そういう話ならいいのだ。これでビーツが壊しました、なんてことになっていたら責任問題になってしまう。既に配られていた朝食を食べて今日の仕事を確認する。ビーツはパソコンには嫉妬しないのに、何だか不思議だなと思った。


 ある日ビーツは俺のベッドでもぞもぞと体を動かしていた。布団をかけていると言ってもなだらかな人間の体とは違いロボットのごちゃごちゃとしたフォルムが布団の下に隠れているのはバレバレなのだ。
「ビーツ。」
「!! んっひ、ぃぁっ!」
 びゅるり、とまるでえろ本の描写のようにナニかが出る音がした。ロボットの顔は赤くなることは無い。恥ずかしさからぎこちない音はしていた。なるほどね、と思った。どうやらこのロボットにも性行為についての知識はあったらしい。
「初めての自慰か?」
「え……?」
「ん?なんだ、お前何やってるかは知らなかったのか。」
「……だって、玄が、やってたから……。」
「俺かよ」
ふはっと笑った俺にビーツは悔しげに音を鳴らした。人間のように表情を変えることは無いがその音でなにかはすぐにわかる
それっぽく作られたモジュールを触り擦り上げた。ビーツは「ひゃぁっ、」と逃げるが後ろに俺がいるので形にぶつかっただけだった。
「ごめ、痛い?」
「あーそうだな、いたいいたい。」
棒読みのセリフにビーツはちょっと怒ったようだったが、すぐに黙った。そしてモジモジと体を動かして「なんだその顔」という。お前が好きな顔だろ、と笑えばビーツはさらに怒った。
ビーツに確かローションは使えなかったはず。唾液でいいかな、と1度手を離したらビーツがすぐに俺の手を取った。
「ん?」
「な、なんで離したんだ…?」
「あはは、辞めるかと思った?」
質問にわざと質問で返した。ビーツは目を瞬かせて一生懸命情報処理している。
こんな所で止められるわけがない。できる限りのつばを手に擦り付けてモジュールを触った。どうせ機械だ。人間のように膨らむことも気持ちいいと思うこともないだろう。それなのにビーツは気持ちよさそうに「んぐっ、んっ♡ ぁっ、やっ、うぅッ♡」と喘いでくれる。それが俺のテンションをまた上げる。
「ビーツ、これが自慰ってやつだよ。」
「ぁう…?じ、い……?」
「そう。」
言い方は色々ある。オナニー、マスターベーションとか色々あるのにとろけ切ってまるで人を殺せるのか分からなくなったビーツが堅苦しく「自慰」という言葉を使うのが面白かった。自分にしかできない優越感というやつである。ビーツの肌を撫でる度にやはり機械だなと思うし俺にしがみつくこの体が沢山の人を殺してきたのも知っている。だけども、こいつには自我があって、今では恋人のやうに俺の横にいるのだ。これが愛しいと言わずしてなんというのか。
射精という概念も持ってないビーツはただただ与えられる快感に熱を持ち始めた。そろそろ限界か。ぷしゅり、とビーツが沈んだ。ロボットの機能の限界である。こうなるのは仕方ないことである、彼は生殖機能もないのだから。ベッドに横たわらせて氷を持ってくる。すぐに溶けていく氷を見ながらどこでオナニーなんて概念を覚えたのか聞く必要があるよな、と思った。まあ、その前に自分のそれを早く処理しなければならないが。ビーツとちゃんとセックスできる日はいつ来るのだろうか。
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