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番外編

SS02
【エイプリルフール】
 ゾンビにエイプリルフールなんて知識はあるの?と思った。絶対にないだろうと思っていた。それが、0時に叩き起されてにゅっと出されたカードを見て「そんなことはなかった」と驚かされた。
「わたしに、嘘ついてもいいですよ。」
 下手くそな字で書かれたそれに俺は笑いだしてしまった。どうせ嘘なんか分からないのに!!
「んー、そうだなあ。じゃあ……。」
 真正面にいる相手に今から嘘をつく、と思うとあまり思い浮かばない。しかもソンビである。lieのスペルも間違えて書き直されてるようなやつである。さて、どうしたものか。
「ケビン、実はなうちにはもう一体ゾンビがいるんだよ。」
 何となくそんなことを言ってみた。どうせ分からないはずだ、と思っていたがケビンはガン!とショックを受けた顔をした。ゾンビにも涙は出る。ケビンからボロボロと涙がこぼれてきてやるせない気持ちのまま、持っていたカードを食べようとする。
「わー、待て待てケビンー!!」
 ケビンはクリスマス前よりもどうやら賢くなったらしい。慌ててカードを回収するとさっきよりも強く泣き出してしまった。ネッドにはどうすればいいか分からない。抱きしめたあと「ごめん、うそだよ。ケビンしか家にいないよ。」と何度も囁いた。ケビンはやっぱり泣いていたがネッドの声を聞いているうちに落ち着いたのかネッドに抱きついたまま眠りこけたのだった。
 寝たか。ネッドは自分も寝ようと体を横にしたがこのままだとケビンの腕が折れてしまう気がした。ゾンビの体ってどうなってるかよく分からない。体重をかけてもいい……? いや、寝相があったらどうなんだ……? 分からなくなって仕方なくネッドは座ったまま寝ることにした。これもまたサバイバルのひとつだ、と心の中で言い聞かせてケビンに八つ当たりしないようにした。
 朝起きて、やっぱりネッドから離れないケビンを放置して朝食の缶詰を食べて家を出る。美食家ヴィンセントに会いに行くのだ。
「あー、あのカード? そう、私が作ってあげた。」
「そりゃあどうも。」
「おや。折角のエイプリルフールだぞ、」
 嬉しいんだか嬉しくないんだかよく分からない。
「それで、その腕にくっついてるのはどうしたんだい。」
「ああ……。ジョークOKってカード見たから言ってみた。」
 それを聞いたヴィンセントはげらげら笑っていた。こいつ、ゾンビの中では賢い方だけれどやっぱり精神年齢は子どもだ。
「あー、おかしかった。」
「やっぱりお前の仕業か。」
「失礼だな、私は『これを見せたらネッドが喜ぶよ』と言っただけだ。」
 結局ネッドもケビンもヴィンセントのイタズラに付き合わされただけらしい。はた迷惑な、と思ったがジョークも分からないまま「Another guest」の存在にケビンには困ったことだろう。くっついたまま「自分のモノ」と主張するケビンの頭を撫でながらネッドはいつかエイプリルフールも楽しめる未来が来ればいいのになあ、と思った。
 その為には、まずはゾンビ化した世界の中で赤ん坊が生まれて新しい世代を繋げなければならないが。


【フルーチェ】
※フルーチェのある世界線と思ってください

 フルーチェを作ろうと思った。ヴィンセントがどこからか仕入れてきたのである。ミルクもあるし、とキッチンに立ったら甘い匂いに釣られたのかケビンものそのそと近づいてきた。
「ケビン、危ないからキッチンには来るなって言ったろう!?」
 ケビンは首を振って横にくっついてきた。フルーチェの袋を見てぱあっと顔を明るくさせる。
「たべる?」
「そうだよ。」
 はわぁっと喜んでいたケビンが子どもみたいで俺は笑ったが、忘れてはならないことにこいつはゾンビだ。人間を殺せるタイプの。わーい、と取り出したフルーチェの袋をケビンは何を思ったのか勢いよく袋を左右に引っ張った。勢いよく飛びかかる液体に前が見えなくなる。慌てて擦りながら目を開くとケビンは予想以上に振りかぶってキョトンとした顔になっていた。何が起きたか分からないって顔だ。
「っ、あはは! ケビン、やらかしたなお前……。」
 俺が笑うとケビンはにっこり笑っていたが食べようと思っていたフルーチェはどこに消えたのか分からないし、自分からいい匂いがするからやっぱり不思議そうな顔をしている。いや、今お前が自分で零したじゃん、と言わないようにしてケビンを風呂に誘った。フルーチェはもうひと袋ある。それを使って食べよう。
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