アドベントカレンダー
あと23日
その日はケビンは朝から様子がおかしかった。口の中を気にしては全く抜ける心配のない歯をぐいぐいと引っ張っていた。
「動かすんじゃない。」
手を取ってもケビンはまたぐいぐい引っ張る。最終的にネッドが腕を掴んであげないといけなかった。ケビンは最初は嫌だ嫌だと動いていたがネッドが離す気はないと分かるとちょっとずつネッドの方に体を寄せた。ゾンビのウイルスはネッドに強く影響しているわけではない。ネッドの母の用意してくれたクスリのお陰か外をうろついているゾンビよりもケビンはまだ人間っぽい皮膚をしている。それでも、それでも、である。ネッドには「クラスメート」のケビンであったし、ゾンビになってもくっついて来るのは些か気になっていた。
「ケビン、ちょっと離れてくれるか。」
手を離してケビンから距離を置くとケビンはキョトンとした顔で自分の手を開いたり閉じたりする。ネッドがそばにいないと分かると白くにごったような目はネッドの方をむき、のそのそとゆっくり近づいてくる。
「うぁあ。」
舌が上手く動かないのかケビンはやっぱり声が出ない。
「ごめん、ケビン。」
離れたりしたらいけなかったな、とネッドが笑うとケビンもニコリと笑った。
アドベントカレンダーには新しく子どもが喜びそうなオモチャを入れてみた。小さな人形である。ネッドは今度は食べなかったがじーーっと見つめては俺と人形とを比べている。
「ネッド、これは……。」
ぱくっ。
今、何が起きたのか俺にはわからなかった。ケビンが何を貰ったのか分からないんだろうと思って、説明しようとしたらケビンはひょいっと口に入れてしまった。ごくん、と飲み込む音までハッキリ聞こえた。
「ケビン……?」
ぱかっと口が開かれた。綺麗な口の中が見える。何も無い。アドベントカレンダーは、お菓子とかを入れるのが普通だし、それを想像しているのか? いや、違うだろう。
俺はショックを受けていたのだろうか。よく分からない。開かれた口を見てなんとなしに手が伸びていた。赤くて綺麗な舌を掴む。
「ケビン、食べ物じゃないよ。」
「ぇあ、あ。ぁーあ、ああ!」
「ケビン。分かってる? 食べ物なら、ちゃんとそう言うし。食べたいのならちゃんと上げるから。」
舌を撫でながらケビンの頭を撫でる。普通の人にこんなことはしない。ケビンがゾンビだから、してるのだ。そう思わないと精神的にまずかった。ケビンはビックリしたような顔をしていたのに段々と目付きが変わってる。元々の顔が綺麗な男だ。あのケビンからだったら考えられない姿に目が眩んだ。何してるんだ、自分は。手を外すとケビンは舌を出したまま深呼吸した。一気に哲学者みたいな気分になる。何やらかしてんだろうな、自分は。
「ニァ……」
「ん?」
えっ、今声出たのか。
俺がトランプ食べたから悪いんだって思った。お腹を開けることも出来るけどそれをネッドの前でやると怒られちゃう。泣かれちゃう。ネッドは俺とあっついものを浴びてるときいつも体を撫でる。ネッドの方が俺よりちっちゃい。鏡の向こう側にはゾンビとネッドがいる。俺がネッドに抱きつくと向こうも抱きついてる。あいつはずるいやつだ。
せめて口の中に残ってないかなーって探してたんだけどネッドに手を掴まれた。NO, stay hereとネッドの口が動いた。ネッドがこういう時ちょこっとだけ胸が痛くなる。寂しいわけじゃない。ただ、なんか痛くなる。ネッドにくっつくとこの痛いのもちょこっと消える。でもすぐまた痛くなる。ネッドは俺の事、どう思ってるのかな。くっついてモヤモヤしたものと体の中で戦ってたらネッドが近くにいなかった。何でだろう。手を見たらネッドの手がここになかった! ネッドが行っちゃった。ネッドの所に近づくと笑ってた。だから俺も笑った。ぎゅーって抱きしめた。暖かくて気持ちいい。なのに、どうしてだろう。何だか、胸が痛くなる。
ネッド。名前を呼んだらネッドは俺の名前を呼んでくれた。嬉しかった。
その日はケビンは朝から様子がおかしかった。口の中を気にしては全く抜ける心配のない歯をぐいぐいと引っ張っていた。
「動かすんじゃない。」
手を取ってもケビンはまたぐいぐい引っ張る。最終的にネッドが腕を掴んであげないといけなかった。ケビンは最初は嫌だ嫌だと動いていたがネッドが離す気はないと分かるとちょっとずつネッドの方に体を寄せた。ゾンビのウイルスはネッドに強く影響しているわけではない。ネッドの母の用意してくれたクスリのお陰か外をうろついているゾンビよりもケビンはまだ人間っぽい皮膚をしている。それでも、それでも、である。ネッドには「クラスメート」のケビンであったし、ゾンビになってもくっついて来るのは些か気になっていた。
「ケビン、ちょっと離れてくれるか。」
手を離してケビンから距離を置くとケビンはキョトンとした顔で自分の手を開いたり閉じたりする。ネッドがそばにいないと分かると白くにごったような目はネッドの方をむき、のそのそとゆっくり近づいてくる。
「うぁあ。」
舌が上手く動かないのかケビンはやっぱり声が出ない。
「ごめん、ケビン。」
離れたりしたらいけなかったな、とネッドが笑うとケビンもニコリと笑った。
アドベントカレンダーには新しく子どもが喜びそうなオモチャを入れてみた。小さな人形である。ネッドは今度は食べなかったがじーーっと見つめては俺と人形とを比べている。
「ネッド、これは……。」
ぱくっ。
今、何が起きたのか俺にはわからなかった。ケビンが何を貰ったのか分からないんだろうと思って、説明しようとしたらケビンはひょいっと口に入れてしまった。ごくん、と飲み込む音までハッキリ聞こえた。
「ケビン……?」
ぱかっと口が開かれた。綺麗な口の中が見える。何も無い。アドベントカレンダーは、お菓子とかを入れるのが普通だし、それを想像しているのか? いや、違うだろう。
俺はショックを受けていたのだろうか。よく分からない。開かれた口を見てなんとなしに手が伸びていた。赤くて綺麗な舌を掴む。
「ケビン、食べ物じゃないよ。」
「ぇあ、あ。ぁーあ、ああ!」
「ケビン。分かってる? 食べ物なら、ちゃんとそう言うし。食べたいのならちゃんと上げるから。」
舌を撫でながらケビンの頭を撫でる。普通の人にこんなことはしない。ケビンがゾンビだから、してるのだ。そう思わないと精神的にまずかった。ケビンはビックリしたような顔をしていたのに段々と目付きが変わってる。元々の顔が綺麗な男だ。あのケビンからだったら考えられない姿に目が眩んだ。何してるんだ、自分は。手を外すとケビンは舌を出したまま深呼吸した。一気に哲学者みたいな気分になる。何やらかしてんだろうな、自分は。
「ニァ……」
「ん?」
えっ、今声出たのか。
俺がトランプ食べたから悪いんだって思った。お腹を開けることも出来るけどそれをネッドの前でやると怒られちゃう。泣かれちゃう。ネッドは俺とあっついものを浴びてるときいつも体を撫でる。ネッドの方が俺よりちっちゃい。鏡の向こう側にはゾンビとネッドがいる。俺がネッドに抱きつくと向こうも抱きついてる。あいつはずるいやつだ。
せめて口の中に残ってないかなーって探してたんだけどネッドに手を掴まれた。NO, stay hereとネッドの口が動いた。ネッドがこういう時ちょこっとだけ胸が痛くなる。寂しいわけじゃない。ただ、なんか痛くなる。ネッドにくっつくとこの痛いのもちょこっと消える。でもすぐまた痛くなる。ネッドは俺の事、どう思ってるのかな。くっついてモヤモヤしたものと体の中で戦ってたらネッドが近くにいなかった。何でだろう。手を見たらネッドの手がここになかった! ネッドが行っちゃった。ネッドの所に近づくと笑ってた。だから俺も笑った。ぎゅーって抱きしめた。暖かくて気持ちいい。なのに、どうしてだろう。何だか、胸が痛くなる。
ネッド。名前を呼んだらネッドは俺の名前を呼んでくれた。嬉しかった。