このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

アドベントカレンダー

あと24日
 アドベントカレンダーの中にはそれを開く人が喜ぶものを入れておかなければならないが……ネッドにはケビンが喜ぶものがよく分からなかった。昔……それこそ、人間の時もわからなかったがまだこういうものが定番、というプレゼントがあるだろう。ではゾンビは? 人間……? ケビンは外に出ると人間を食べようとするがそれをネッドが用意すべきなのか……?
 ネッドはそっと隣にいるケビンを見てみた。ケビンはのんびりとして太陽を浴びている。体が鈍らないように、と外に出ようとするとケビンがいつもついてくる。ゾンビは走れるんだろうか、と思ったら案外彼は走れた。ゾンビたちが走れない理由はおそらくその肉体が腐って股関節や筋肉が上手く動けなくなってるのだろう。そう考えると確かにケビンは例外だな、と思った。一緒に走るケビンはまるで子どものように色々なものに興味を惹かれる。その度にネッドはパチン、と指で合図をする。ケビンはその音にはすぐに反応する。ネッドはケビンが傍に戻ってくるのを確認するとようやくまた走り出す。ちゃんと待っていないとゾンビのケビンはネッドを見失ってしまうのだ。まるで犬みたいだな、と思わなくもない。
 ネッドが思うにゾンビになると知能が著しく下がる。まるで赤ん坊か少し大きくなった子どもだ。3歳か4歳くらいの子ども。彼らはゾンビになると脳から溶け始める。本能で動くようになるからだ。でもたまに物凄く頭のいいゾンビもいる。きっと元から天才なのだろう。ゾンビになってようやく平凡な人間と同レベルになるのだ。賢いゾンビというものはえてして変人だ。ネッドの知る彼は美食家を名乗り、初めてあった時は「まずそうだねぇ、君。」と言っていた。今も会う時には気をつけているが彼は他のゾンビのような見境なく襲うということがない。今回の話の相談役にはピッタリだった。


 少し走ったあとネッドはケビンを連れてかの美食家のもとを訪れた。このウイルスの蔓延る世界は既に人間は絶滅の危機である。どれくらい生き残っているのかはツイッターを見ればわかる。凍結したアカウントを削除する生存者がいるのである。それを見ると今はだいたい世界でも3000人くらいだ。10億を超えた人間は今やたったの3000人くらいしかいない。ゾンビたちはこの生き残った人間を食べようとしては結局仲間を食べることになるか、人間に殺されるかの2択だ。いや、本当に少数派はケビンや美食家のように人間が食べるものを食べて生き残っていたりする。
 ケビンを引きずりながら美食家の家に入ると「相変わらず野蛮だねぇ」と耳奥に張り付くようなおぞましい声が聞こえた。
「ヴィンセント、やめてくれ。」
「すまない、君には刺激が強かったかな。」
 ゾンビには変異体がいる。ヴィンセントもその類らしい。ケビンよりも随分と遅れてゾンビになったはずなのに彼はその賢さと変異体とされる力で今も尚ここを牛耳っているのだ。ネッドが嫌がっていることにケビンはことさら聡かった。ネッドに抱きついてむっとヴィンセントを睨む。ネッドからしてみれば子犬のような動きだと思ったがヴィンセントからしてみれば主人にしか従わない狂犬のように見えた。
「まあいい。それで、今日はここに何しに来たんだ?」
「相談事、というか。」
「相談? 私にか?」
「うーん。あんたが1番いいかなあって。」
 おやおや、とヴィンセントは首を傾げた。ツイッターで聞けばケビンに聞かれなくて済むのにどうしたのだろう。そんなことを考えたがヴィンセントも頼られて悪い気はしなかった。話を聞こうじゃぁないか、と笑顔で言う。
「……。ゾンビって、何を貰ったら嬉しいのかな。」
 ネッドの言葉はあまりにも唐突でヴィンセントは「はあ?」と変な声を出した。
「え、なに、ケビン以外のゾンビにはなにか上げるのかい?」
「いや、ケビンですけど。」
 ケビンは自分の名前が呼ばれていることに顔を動かしては見て貰えないことにしゅんと顔をしめらせた。ネッドはそんなケビンに慣れているのでケビンの片手をとり、しきりにその指を掴んだ。ケビンはそれをされると痺れたように動かなくなる。その光景を見ているヴィンセントはいつも、ケビンてば彼のこと大好きじゃんほんと何見せつけてるんだよ??と疑問を持つのであるがネッドは大真面目だった。
「……ケビンは何貰っても嬉しいと思うけど?」
「この馬鹿なゾンビに愛の告白して伝わるか?」
「ああ……。」
 それは分かる。ヴィンセントも人間時よりは馬鹿になったが、周りのゾンビはさらに馬鹿だ。銃が自分を殺すものかどうかもわからないのだから。自爆して死ぬゾンビもいる。
「なら、君たちの思い出の品はどうだい。」
「思い出の品?」
「幼なじみなんだろう、君たち。」
 ヴィンセントの言葉にネッドは頷いて良いのか分からなかった。これ以上のアイデアは出なさそうだと屋敷をあとにする。手を繋いだまま歩いていたらケビンはどこかに走ることも無くネッドの隣をちょこちょこと歩いてきていた。


 アドベントカレンダーの中に仕込んでおくのはもっと前からやるべきだったがどうせゾンビは今入れたところで気づくはずもない。ネッドは考えた挙句、昔トランプにサインを書いて遊んでいたことを思い出した。マジックショーでサインを書くのにハマったのだ。ボックス状のそれに24という付箋をつけて中にトランプを入れた。
「ケビン。」
 名前を呼ぶとケビンは近寄ってくる。トランプを見た彼はすぐに食べようとしたが慌ててネッドが口から取り出した。ネッドの指が入るとケビンはすぐに口を開く。前に実験するようにケビンの口の中をぐにぐにと指で動かしたが彼は擽ったがるだけで食べようとはしなかった。
「いい子だな、ケビン。」
 でも思い出のトランプは彼の中には思い出として残ってないらしかった。
3/5ページ
スキ